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アルファ

ぐぐっと伸びをする。 僕も仕事終わったし帰ろうかな。 のんびりと帰る準備をしてまだ残ってる子たちに早めに上がるように伝えて会社を出る。 「武岡さん、お疲れ様です」 「おっと、びっくりした 辻村くんか、お疲れ様 上がるの遅いね、何かあった?」 「いえ、プレゼンのことで少し……」 ……前、たまたま見たことがあるが職場の子に告白されているのを見かけたことがある。 大方、今回もそうだろう。 「そかそか、大変だねぇ 辻村くんは電車だっけ? 僕、今日は駅の方の駐車場に車停めてるから途中まで一緒に行っても良いかな」 「はい、大丈夫でしゅっ …………すみません、噛みました」 「くはは、照れてるのかい?」 他愛ないことを話しながら駅へと歩いていく。 「……雲行き、怪しくなってきたね 雨降りそうだ」 「そう、ですね、今日は一日晴れのはずですが……」 こういう空模様の日は嫌なことが起こりそうだ…… 辻村くんにバレないようにこっそりため息をつく ​─────── 「……では、私はここで お疲れ様です」 「一緒に来てくれてありがとう お疲れさ……」 辻村くんと別れようとした瞬間、 辺りが騒がしくなり、 ……胸がドクンッと跳ね上がる 。 これは……! (オメガのフェロモン……!) 慌ててラット抑制剤(発情抑制剤)を取り出し飲みこむ。 サッと辺りを見回すと……女性が顔を赤くして倒れている。 彼女がヒートを起こしたのだろう。 ……薬を飲んだと言え薬が効きだすまでに時間がかかる。 今、近づくのは危ない。 とりあえず、警察に連絡を…… 「大丈夫ですか」 「!?」 辻村くんがヒートを起こしている女性の元へ行き、話しかけている。 彼が抑制剤を飲んだ様子はない。 目が獲物に食らいつく前の獣のようにギラギラしている。 「薬、もってますか? ……カバン失礼します、これですか?」 淡々と女性に薬を飲ませている。 ありえないだろ。 ヒートを起こしているオメガに近づいてラット(発情)しないなんて。 そんなアルファがいるなんて。 どれだけ意思が強くたって無理に決まってる。 誰かが呼んでいたのか救急車が来た。 そのまま救急隊員に女性を引き渡している。 救急車が走り去っていく。 バチッと辻村くんと目が合う。 今にも獲物に飛びつこうとしている獣の目。 噛みたくて噛みたくて仕方ないと欲求を抱えているアルファの目だ。 ……ああ、素晴らしいな。 あの目、押さえつけた時にどんな風に変化するのだろうか。 無理やり犯したらどんな風に…… 犯したい、泣かせたい。 そのうなじに、噛みつきたい ……違う、僕は何を考えているんだ。 ハッとなり辻村くんの元へ走っていく。 「辻村くん、大丈夫かい!? 抑制剤……!」 「……いえ、大丈夫です 俺、オメガのフェロモンも薬も効きづらい体質なんで 普通の抑制剤効かないし、俺のも副作用強いんであんま使わないんです あと少ししたら落ち着くんで」 そうこう話しているうちにも辻村くんの目からギラギラしたものが無くなり落ち着いていく。 辻村くんが落ち着く頃には周りも何も無かったかのように動き始める。 「ふぅ、……すみません武岡さん、ご迷惑おかけしました」 完全にいつもの辻村くんに戻る。 「本当に大丈夫かい?」 「はい、私はもう大丈夫です すみません、ご心配おかけしました」 それでは、失礼します。 そう言って辻村くんは駅の方へと行ってしまった。 僕はといえば、薬が効いて落ち着いているはずなのに胸が高鳴って仕方がない。 あの目、素晴らしい。 押さえつけ犯して泣かせたい。 その黒い欲望が渦巻いている。

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