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病院へ

信号につかまりハンドルを叩き思いっきり舌打ちをしてしまう 「んん、あー……だめだな こういうときほど冷静でいないと」 ふぅっと息を吐き出し気持ちを落ち着かせる 信号を待っている間に抑制剤を飲み、気休め程度だがマスクをつける 辻村くんを見れば顔を真っ青に胎児のように丸まっている そっと頭を撫でるもなんの反応もない 本当に辛そうだ 「……ごめんね もう少しだけ、もう少しで着くから」 信号が変わりできる限り早く車を走らせる 「にしてもキツイなぁ、結構匂いが ……なんで辻村くんからするのかなぁ」 少しでも気を抜けば噛み付いてしまう ガリッっと自分の舌を噛みながら運転に集中する 「すみません連絡していた武岡ですが」 「武岡様……すぐに搬送させていただきます 搬送の間に患者様についてお尋ねしたいのですがよろしいでしょうか」 「はい大丈夫です」 すぐにストレッチャーがやってきて乗せるのかと思いきやなにか話し出して数人が帰っていく 「武岡様、こちらでお願いします」 「あ、はい」 看護師に案内されたときすれ違った救急隊らしき人がガスマスクのようなごついマスクをしている ひどく不安になる 「……性別についてですが辻村様は男性、アルファ、でよろしかったでしょうか」 「会社の方にはそのように記録されています あ、たしか前にオメガのフェロモンも普通の抑制剤も効きづらいと聞いたことがあります」 「今、手元に辻村様の抑制剤はございますでしょうか」 念の為と持ってきておいた辻村くんのかばんを漁る 仕事の資料以外にも勉強用らしき本も入っていて探しにくい 「んん……これ、ですかね? ラット抑制剤、書いてあります」 「ありがとうございます、お預かり致します ……辻村様ですがお時間がかなり掛かると思われますがお待ちになられますか? 終わり次第連絡させていただきますが」 「……いえ、待たせてもらってもいいでしょうか」 終わりましたらお声掛けいたします、とパタパタと看護師が去っていく 「ふう……」 両手で顔を覆い大きなため息をつく 「なんで辻村くんからフェロモンが出てたのかな…… もしかしてアルファだと偽っている? それならオメガのヒートにあてられないのも納得がいく いや、でもあの目はアルファ……」 一人でブツブツとつぶやく 答えなど出ないと分かっていても現実から逃避したくて、知りたくなくて これから起きる悲劇を知らずに……

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