12 / 21

悩みは絶えず

「武岡さんお待たせいたしました お入りください」 医者に呼ばれて診察室へと入り椅子に腰掛ける 「端的に言いますと辻村さんの体がアルファからオメガへと変化しています」 「変化、ですか?」 「こちらの写真を見ますと……」 その後も小難しい話が続く 話を聞きながら頭の中を整理していく 「んん……つまり、痛みの原因は新しく子宮が形成されているから、ということですか」 「大まかに言えばそうです 他の部分もアルファからオメガへと変化し始めています ……後天性、もしくは検査ミスかと思われますがどちらの可能性も低いように思われます うなじに噛み跡がありましたがそれがどう関係するのか、もしくは他になにか原因があるのか……」 うなじの噛み跡 僕がつけたものか もしかしてそれがこの原因を作った? いやでもそんな事がありえるのか? 「それでですが、こちらといたしましても今は痛み止めを出す以外手の打ちようがありません 入院中に色々原因の方を調べさせていただきます 子宮の形成が終わるまで、おそらく一ヶ月ほど入院ということになります」 「わかりました」 「入院病棟の方は一応オメガ専用病棟となります 質問など、入院に関しての話はまた別のものからお聞きください 他に何か質問などございますでしょうか」 「……そう、ですね あの、診断書の作成についてですが……」 ​─────── 「武岡課長!」 「おっと吉岡さん、だったかな 走ったら危ないよ」 「あ、す、すみません あの、辻村さんあの後大丈夫でしたか」 「ああ、後で全体にも連絡するつもりだったんだけど一ヶ月ほど入院ってことになったよ 盲腸と過労だって いつも頑張りすぎてるしゆっくり休んでもらえるといいね」 「そうなんですか、大きな病気とかじゃなくて良かったです」 いつも頑張ってますからねーと話す彼女の話を聞きながら考える 会社には事実を隠して伝えるとしても本人にどう伝えるべきか…… 番になっているんだろうしその事も考えなければ…… 「そういえば昨日辻村さんからすごく甘い匂いしたんですよね 香水でもつけてるんですかねー」 ……甘い匂い? 彼女が発した何気ない一言に足が止まる 「た、武岡課長? どうされましたか」 「んん、事務の方に辻村くんの入院の書類出すの忘れてた 先に行っててもらってもいいかな」 彼女に安心させるように笑いかける 彼女が見えなくなったことを確認し壁によりかかる 彼女は確かアルファ、だったか 辻村くんがオメガになっているならフェロモンに反応するのも不思議ではない けど、 僕がすでに? 噛んで番になったオメガは番以外にフェロモンが出ないはずだ いや、そういえば病院に着いたときも救急隊の反応がおかしかった フェロモンが異常を起こしているのか ……いや、違う 僕たちは と考えるべきだろう 調べてアルファからオメガへと変化し始めているのはわかっている 実際フェロモンも出ていた けど おかしいだろ、オメガに噛んだ場合どんな場合でも強制的に番になるはずでは 実際レイプからの強制的に番になった話もよく聞く そういう事件もたくさんある なぜ今回は、僕たちではならなかったのか 「んん……んー……」 ぐーっと天井を仰ぎ見る 「んあー、なんにもわかんない…… けど、がんばるしかないな……よっし!」 まずは辻村くんの分の仕事の分配と入院の費用とあれとこれと…… 気合を入れ直しまた歩き出す ​─────── 「づぁ……はー、ぁー……うあぁ……」 「辻村さん大丈夫ですかー 聞こえますかー」 「……だい、大丈夫です」 「一応キーパーソンの方に連絡を……」 「やめろ! ……ふっぐ、すみま、せん 連絡は、しないで、ください それだけは、おれは、大丈夫、だから…… めいわく、かけ、れない、絶対、いやだ……!」 キーパーソン →保証人、患者になにかあったときに連絡がいく人のこと 普通は家族ですが辻村さんが拒否したため 武岡さんです 辻村さんの両親はいます

ともだちにシェアしよう!