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「んんっ……とりあえず、努力は認める」 「おぉ……!」 「魂はやれねーけどな」 「おぉ……」 「が。花嫁修業なら、いい」 「ハナヨメシュギョー……人間が嫁ぐ時に、家事スキルを磨くあれか……!」  取り戻した正気は、一喜一憂する王子フェイスの前に見事な下心を覗かせた。  花嫁修業を知っているらしいニューイに、うんうんと深く頷いて親指を立てる。 「ギブアンドテイクでいこう。暮らしを助けてくれるんだろ? じゃ、俺がバイトに行ってる間お前さんはうちの家事をする。そしたら家賃は要らねー。食費とかはおいおい計算するから今のとこは除外で」 「家事をする……」 「そんでなるたけ人間らしく! 生活する能力を身につけること」 「人間らしい生活能力?」 「そ」  九蔵はこっくり頷く。 「今朝みてーに玄関破壊なんか、人間にゃできねーの。あの指カッチンも、なるべくな。俺は目立たず騒がず平和に生きたい」 「修復能力……あ、あれは悪魔なら誰でも生まれた時からできることなのにかい?」 「はぁ……花嫁修業して、お前は人間らしく生活するんだろ? 悪魔生活じゃない。人間生活、ちゃんとすんの」 「人間生活」 「要するに、人間のできないことはしない。人間の姿を保って人間の常識を覚える。……魂どうこうって話は置いといて、一緒に暮らせない相手と結婚なんかできねーだろ?」 「おお、そうだな」 「うん。そんじゃ悪魔ってことをうまく隠して生活できんなら、とりあえずは、ここに居候させてやんよ」  九蔵の提案を受けて、当のニューイは喜色満面を浮かばせた。  それはそれは嬉しげに破顔し、ホワホワと周囲に花まで飛ばす。  ……これは、仕方ない。  あれだけごねて頼まれれば、どのみち断りきれなかったはずだ。  押し問答を繰り返すのも疲れるし、ちょっとくらいなら誰かと暮らしても、それほど問題はないだろう。  ──それに家賃代わりに好みドストライクのイケメン顔を日々眺められるのだから、今より楽しい生活が、送れるかもしれない。 「……ま、悪くねーよな」  そういう下心を、九蔵はひっそり胸の奥にしまった。要するに下賎なのだ。  けれど、魂きっかけと顔きっかけ。下賎なのはお互い様で、そういう意味でもギブアンドテイク。  ニューイは魂を狙う機会を得て、九蔵はイケメンを密かに眺められる。ウィンウィンの関係。 「うまく擬態をしきって、私は完璧な人間生活を送る。そして九蔵の、お嫁さんになるぞ!」 「そっか。んんっ……そしたらほら……嫁さんらしく、まずはこのエプロンを着けて撮影会と洒落込むか?」 「む……? よくわからないが、九蔵が喜ぶなら洒落こむのだよ」  ──利害の一致と、下心。  こうして、見た目はパーフェクト王子でありながら中身は常識知らずな子犬系悪魔と、普段は常識的なのにイケメンに弱いメンクイな省エネ系フリーターの、奇想天外な同居生活が始まった。

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