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──と。さも順調そうに進む物語だがそう簡単にいかないから、九蔵は自他ともに認める〝不運な男〟なのだ。
「っこんの、ニューイっ!」
「っいやこれはそのソソソソージキが勝手に爆発してっ!」
「コラ! 嘘吐きは嫌いだ!」
「っ!?」
同日の夜。
ピシャァンッ! とド級の雷をニューイの脳天に落としながら、九蔵は朝令暮改上等だと唸りを上げた。
なぜ開幕からこんなことになっているのか。これには深いわけがある。
「九蔵、おこ、怒って」
「どこの掃除機が勝手に爆発するんですかねぇ……! まちっとマシな嘘を吐けッ! このドジ犬がッ!」
「あ、あう、あう……っ!」
叱られて余計に頭を抱えて丸くなるニューイへ怒髪天を衝く九蔵は、ほんの少し前の出来事を思い返した。
同居が決まり、エプロン姿のドストライクイケメン撮影会を行ったあとのこと。
九蔵はニューイに留守と家事を任せて、予定通りアルバイトへ出たのだ。
バイトが終わって帰る頃には夜も更けていたが、朝の撮影会のおかげでその足取りは浮ついたものである。
だって、金髪ショートのややタレ目気味な王子系イケメンだぞ?
そして、厚手の黒シャツに臙脂のベスト装備の八等身スタイルだぞ?
そりゃあどうしたって、手持ちのエプロンを装着させるに決まっている。撮影するに決まっている。なぜならイケメンだからだ。
全九蔵がスタンディングオベーションで「わかりみがマリアナ海溝」と称えた。
口調は現代人らしからない硬さであり、話すセリフは常識知らずの天然発言。
だが、とにかくあの悪魔は顔がいい。
額に入れて飾りたいくらい顔がいい。
幸いにして九蔵の部屋には盗られて困る貴重品もなければ、住人も貞操を守らねばならない生娘ではない。
面の皮の内側が強盗だろうが強姦魔だろうが、リッチでも美少年でもなく垢抜けない男の九蔵にはダメージがないと言える。
とりわけ、ニューイは魂を前世から狙っているほど九蔵を好いていた。
それはもう大きな体で九蔵の周りをノソノソと動き回りクゥンクゥンと控えめに鳴いては、構ってもらえるとワッフワッフと喜ぶただの子犬だ。
ならば常識はないが礼儀正しい悪魔型ワンコ一匹、飼ったところで問題ないだろう。
「うちのアパート、ペット可でよかったな……」
結婚相手にはカスリもせずペットの子犬と認識しているニューイを思い、へら、と笑みを浮かべた。
これが浮かれずにいられるか。
未来は希望に満ち溢れ、世界が輝いて見えた。視界のセルフイルミネーションだ。
普段はクマをこさえたジト目気味な目元がニコニコと弧を絵描き、やる気のない表情筋もすっかり晴れやかとなった。
ウキウキである。人生はバラ色なのだ。
久しぶりに新しい他人と関わってよかったと、悪魔との出会いを祝福したいくらいだ。キリシタンが聞けば目をむく思考に違いない。
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