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「……ぬぅ……やはり、いつまでも九蔵は私をちっとも見ない……」  不満げに指先を捏ねるニューイに、九蔵は気がつかない。イケメン好きの九蔵がエプロンニューイを直視しないようにしていることを、ニューイは知らないのだ。  ニューイには自分の顔がいい自覚がない。  悪魔たちにとって顔がいいとは、頭蓋骨の形がキレイだという意味である。その頭蓋骨が隠れている人間体は、仮面を被った状態に等しい。  ニューイにとって九蔵がしばしば言う「顔がいい」「イケメン尊い」は、むしろ少し拗ねてしまう言葉だということを九蔵は知らなかった。  いつも顔をそらされて距離を取られる理由なんて、ニューイには皆目見当もつかないわけである。 「あの画面の向こうには、いつもどんな相手がいるのだろうか……誰でもいいが、九蔵の視線を独り占めとは、うらやまけしからん……私、だって……」 「ニューイ、パンかしてみ」 「うむ」  妙に真剣な表情をするニューイから食パンを受け取り、トースターにセット。  ニューイは出会ってからずっとよくわからない。なにか言った気がするが触れるだけ無駄だろうと、ノータッチでおくことにした。  パンが焼けるまでの間に、九蔵は服を着替えて身支度を整える。  用意が終わった頃にちょうどよくパンが焼けたので、コーヒーとセットでテーブルに置く。  電気ケトルの取っ手を粉砕されたが、もうそのくらいじゃ動じなくなった。順応性の勝利である。 「いただきます」 「いただきます」  九蔵が手を合わせると、ニューイはそれを真似た。彼の前に食べるものはないのだが、毎度律儀に真似をする。  もしゃもしゃと食事をする九蔵を、ニューイはいつも前に座って眺めていた。 「九蔵は毎朝パンを食べるな。パンが好きなのだな。昔の九蔵もパンが好きだった。私が用意したものはなんでも食べてくれたけれど、葡萄酒は苦手だったかな」 「もぐ、もぐ……」 「しかし……あぁ、九蔵の食欲……ほんの少しだけ食べたいな。ちょっと舐めるだけで、いや、触れるだけでいいのだが、むむ……けれど食欲がなくなると人間は枯れてしまう……こんなこと言ってはならないぞ……ああ……せめて、もっと私に構ってくれ……九蔵のパンになりたい」 「……もぐ」  ……ものすごく、居心地が悪い。  これもいつものことだ。本人は心の声が漏れていることに気がついていないので質が悪かった。  脳内に直接語りかけるのが会話方法である悪魔は、それができなくなる人間体だとうっかり口に出してしまうようだ。  そしてその声を聞くに──夢で見たとおり食事をせずに生きているニューイは、やはりある程度の空腹感を覚えるらしい。 (そういえば、聞きそびれたな)  もぐ、と残りのトーストを食べ終え、指についたパンクズを皿の上に落とす。 「あのさ、ニューイの好きな食いもんってなんかあんのか?」 「む? 私の好きな食べ物は……いや、待てよ」  ふと気が向いたので投げかけた質問は、返答を与えられずに考え込むニューイによって、マテを言い渡された。
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