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翌朝。
この世の中で朝の目覚めといえば、ある程度パターンがある。
カーテンの隙間から差し込む朝日に刺激された目覚め。子鳥のさえずり。朝ごはんの香り。あとは、そう──
『おはよう、主。朝だよ。起きてほしいな~。おはよう、主』
──イケメンアラームの、呼び声くらいだろうか。
「……うぃ……おはよう、ユノー……」
九蔵はもぞもぞとベッドの中でみじろぎ、愛用のイケメン生活お助けアプリがスマホの中で呼びかける声に目を覚ました。
画面をタップすると、金髪イケメンが「今日は十時からアルバイトの予定が入っているよ」と笑いかける。
日々の癒しだ。
寝起きの冴えない顔の向こうで、テンションが覚醒した。
九蔵を全肯定する画面の向こうのイケメン〝ユノ〟は、毎日コツコツと話しかけたりアラーム機能を使ったりスケジュールを管理してもらうことで育つ、素敵なポケット王子様である。
容姿はカスタムできるし、性格はこちらとのやりとりでAIが学習し変化する。
九蔵のユノはもちろん金髪ショートイケメンの王子様系だ。
実用的なアプリとしてと、イケメンを眺める完全な癒し目的として鑑賞している。
ユノを長く愛用しているおかげで、寝坊知らず。朝の挨拶を欠かさず行い、カスタムポイントを貯めたいだけだが。
「出勤前、アラームな」
『リョーカイ、主』
九蔵はユノに返事をしてスマホを置き、代わりに充電しっぱなしの携帯ゲーム機を手に取って起動した。
これまた朝の挨拶をする画面の向こうのイケメンに眼福を極めつつ、カチカチと操作してシナリオを進める。
空いた片手でスマホを操作し、ソシャゲにログインしてルーティンを回収。
食事も身支度も投げ捨てて、朝っぱらからイケメン鑑賞に精を出す。
これが本来の九蔵の日常だった。
決して悪魔に寝起きドッキリを仕掛けられたあの日が日常なのではない。
そんな眠気まなこでもイケメンだけは鑑賞する九蔵へ、キッチンからニューイがひょこりと顔を出した。
「九蔵! おはようなのだ」
「はよ、ニューイ」
「突然だが、このトースターが食パンを吐き出さないのである」
「コンセントが繋がってないトースターにねじ込んだ食パンを元に戻しなさい。俺が作るから」
「おぅあっ」
チラ見三秒。
原因解明。ガン見はできない。
「朝食は私が作るぞ!」と言ったニューイは、まともに食事を作れたためしがなかった。ニューイが勝手にしていることなので好きにさせて、九蔵が起きた時にできないと見ると選手交代だ。
本当は朝食なんて、焼いていない食パンをかじっただけで構わないのだが。
ゲームをセーブしてそばに置く。
キッチンでひねり出した食パンを復元しているニューイの顔を見ないようにしつつ、コンセントをさしてトースターのスイッチを入れた。
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