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「相変わらずなっさけねーツラしてんじゃないの。愛しのアレくんにフラれて、往生際悪く粘着しちゃってさ。ストーカー気質もほどほどにして? きしょくわり~」  一見ニューイ以外は誰もいない部屋の中に、男の声が親しげなテンポで響く。  挨拶がわりに嫌味でチクチクとニューイを刺すのはいつものことだ。ニューイをからかうのがマイブームであり生きがいらしい。本人から聞いた。  声が聞こえるベッドの下にはもちろん人間が入れる隙間なんてなかった。平素ならホラーだろう。 「ズーズィ、私はなかなか悩んでいる。今はキミに虐められてあげられないぞ」  しかしニューイは驚くことも顔を上げることもなく、ズーズィと呼ばれた声へ暗に帰るよう断った。  ズーズィは不機嫌に舌を打つ。  とはいえそれも一瞬のことで、すぐに調子のいい色を取り戻した。 「ダぁッセ! そんな悩むならさっさと抜けて帰ればよくない? アレくんも諦めろって言ってたじゃん! 嫌われてんじゃね? 知らんけど」 「…………」 「ウヒヒッ。アレくんとの生活なんかね、お前がやめたらそれでゼーンブなかったことになんの。一方通行。ハイ解散解散。新しい獲物拾って帰りましょ〜。あ、ボクのぶんもよろりん!」 「私は、新しいのなんてあり得ない。悩んだっていい。九蔵を繋ぐためなら何度でもぶつかる。生まれ変わったくらいで諦められる恋なんてしていないよ」 「あ~? 喧嘩してたしょ?」 「平気さ。九蔵が私の屋敷に来てくれさえすれば喧嘩はしなくて済むだろう? アルバイトも家事もなにもかもしなくていいのだからね。ずっと一緒にいられるし、九蔵が欲しがるものは私がなんでも与えてみせる」 「イケメンでも?」 「そ、それは……っ少しは、持ち込んでいい。私にも構ってくれるならね。アレを触っている間、待っているぞ」 「はぁ~きっしょ! ガチじゃん。通信制限食らった回線より重いんですけどぉ~」  ボソリボソリ。  結局ニューイは、諦められない。  我慢するから、ちゃんと自分を愛しておくれ? とアピールする。  そんなニューイに、ズーズィはゲロゲロと舌を出してドン引きした。  ニューイにはよくわからない人間の世界の言葉を交えてズーズィはニューイの愛を腐す。酷い男である。だが文句を言う元気はない。  一度手を離してしまったからこそ、もう二度と手を離さないと決めたからだ。 「私は、本気だからね」  ──九蔵が私を鬱陶しがっても。  寂しい事実は心の中に留め、ニューイはシーツにグリグリと頭を押しつけた。  人間らしい生活は自分には不向きで、どうせ屋敷にきてくれればやる必要のないことだから無駄な時間を過ごしている。  わかっていても従っているのは、ひとえに九蔵と離れたくない一心だ。前世級の純愛だろう。例え通信制限とやらより重いと言われても、ニューイは一途である。 (でも、九蔵は私をそう思ってくれない) 『……私は片想い』  途端、瞬きするほど一瞬の間に、ニューイの擬態が解けて悪魔に戻った。  ズゥゥン、とめりこみそうなほど見るからに落ち込むニューイに、ズーズィが「女々しいし重いしキモイしマジでいいとこナッシングだよねー」とせせら笑う。  ニューイが落ち込んでいる。  これはニューイを虐めることを楽しみとしているズーズィにとって、これ以上ないくらいの追い打ちポイントだ。  ちなみにズーズィの愛情表現は嫌がらせなので、嫌われているわけじゃない。ニューイは慣れていた。 「てかさー? 泣いてるとこウケぴよだけど、肝心なことに気づいてなくない?」 『肝心なこと?』 「そ。あんね? 恋人だった頃の記憶がないってことは、アレくんはお前のこと別に好きじゃないってことなんよ? 初対面よ? 端的に迷惑よ?」 『う……わかっている。でも、一緒に住んでいて私は好きだと伝えているのだよ? 九蔵はドライ過ぎやしないかい?』 「ケッ! これだからドストレート真っ向勝負非モテ野郎は虫以下だね~! なにバカなの? 死ぬの? 生き返ってもっかい死ぬの? プププ」 『ズーズィ! 今は虐められてあげられないと言ったじゃないか!』 「ぴえん超えてドクロ」  こんな扱いも、もちろん慣れていた。

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