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──翌日。
「おはようなのだよ、九蔵。今朝は清々しい気分だね」
「…………」
「……く、九蔵?」
「…………」
「あの、くぞ、九蔵……っ?」
起床した九蔵は、虚無であった。
一言も言葉を発することなくニューイの挨拶をスルーして背を向け、撮り貯めていたイケメン俳優が主演を務めるドラマを一気し始める。
慌てたニューイが破壊したトースターのフタを手に持ち駆け寄っても無視だ。
断固として振り向かない。
いや、正しくは振り向けない。
昨晩ああも卑猥な行為を施されてしまって、誰がどんな顔で爽やかな朝の挨拶を交わせると言うのだろうか。
ミッションインポッシブル。
不可能だ。爽やかに死のう。
「ふふ、ふふふふ……」
「九蔵、えと、その」
恥ずかしいを通り越して最早乾いた笑いしか起きなかった。背後でニューイがオロオロと困惑する。ふむ、意味がわからないようだね? デーモンイケメン。
「説明しよう」
「んっ?」
ダークサイドに堕ちた九蔵は、振り向くことなくピコンと指を立てた。
「俺さんは昨晩、自分でアレを握って魂の器とやらをいじくるよう催促し、感じまくってたような気がしているのである。しかし、ニューイさんはノー脱衣で服装を乱すことなくド健全だったのである」
「う、うむ」
「なのでワンチャン夢オチなのではないかと縋り、ガン無視しているであーる」
「いやそれは夢ではないぞ? でも私は気にしてないしむしろ嬉しかっ」
「ほーう……?」
「く、九蔵? あの、目が暗黒面に」
「ふふふふふふ」
「九蔵目が」
おはようの際はご機嫌マックスだったニューイが、刻一刻と震えていく。
同時に九蔵の目の光も失せていく。
視線の先にある画面の中には、イケメン俳優がいた。実にたまらんイケメンだ。
次いで脳裏に更なるドストライクイケメンであるニューイを思い浮かべる。実にけしからんイケメンだ。
──このイケメンが昨晩自分の中(語弊のない語弊)に入り、中のイイトコロ(語弊のない語弊)を愛撫し、もっともっとと強請った自分は盛大に達した、と。
「ニューイ、俺を殺せ」
「なっなぜぇっ!?」
ヘッ、と不気味に笑って介錯を願う九蔵に、ニューイは涙目のまま背後からガシッ! としがみついてガックンガックンと九蔵を揺すった。
突然のバックハグに、脳内の小さな九蔵が「見た目よりたくましい胸板です朝からごちそうさま」とありがたがってコロコロと転がるが、表に出るテンションではない。
穴があったら入りたい?
違う。穴があったら墓を持参して永久に眠りたい、だ。
九蔵は死んだ目で菩薩のごときほほ笑みを浮かべ、真っ白に燃え尽きている。
「く、九蔵! 堕ちてはいけない!」
「さぁ殺してくれ。セクハラはしないと言ったにもかかわらず真横でオ✕ニーしただけでも非常識なのに、おかわりをオネダリ。あまつさえ人外級イケメンをオカズに射精した俺を殺してくれ」
「そんなこと気にすることはないである! そもそも手伝いは私が申し出たことで、出したものも私が綺麗に拭っておいたので問題はなにも……!」
「あぁぁぁっ! 後始末までさせた俺を早く殺せぇぇえっ!」
「なぜさらに殺害要求をっ!?」
必死にフォローをいれるニューイの言葉は、むしろトドメ。
普段の冷静さが成りを潜め、性格上人に迷惑をかけると死ぬ病の発作を起こす九蔵は頭を抱えて身悶えた。
「さぁ殺せ! すぐ殺せ!」
「そっそんなことできないのだよっ! キミの願いはなんでも叶えたいが、っい、嫌だぁぁっ!」
「ぐふっ」
ニューイは九蔵を力強く抱きしめ、スリスリスリと九蔵の髪に頬を擦りつけながら本気と書いてマジでガチで命懸けじゃい! といった勢いでしがみついた。
「くっ、腹が、締まる……!」
「殺すなんてとんでもない……っ! 私にそんな命令しないでほしい……っ! どうしてそんなことを言うのだよううぅ……っ!」
「そういうの今自重しなさい……!」
キュンとしてしまった九蔵は、絞殺だけでなく別の意味でも死にそうだ。
チョロいのではない。ニューイが九蔵を照れさせる兵器ということだ。
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