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「くぅっ」 「ふぎゅぅ」 『九蔵ぉ~……っ』  ついに感情が極まったニューイは、ボフンッと瞬きほどの刹那で恐ろしい悪魔の姿に戻ってしまった。  九蔵が殺せと言ったことがあまりに衝撃的過ぎて、ネガティブな感情により擬態が解けるニューイは耐えられなかったらしい。 「ちょ、っと、待て待て待てぇ……っ」  おかげで九蔵は暴れてもいられず冷静になったが、代わりに内臓が絞られる。  悪魔モードは力も強くなるようだ。長身痩躯の九蔵の腹はさぞかし絞りやすいだろう。身が出る寸前である。 「ニュ、コラ、ふぐっ」 『九蔵、九蔵っ。どうして恥ずかしいのだっ? 魂は人間なら誰しも感じるものだぞっ? おかしくないっ。悪魔は感じてくれると味が良くなって嬉しいっ。私は嬉しいぞっ』 「は、能力ってなん、っ腹、しっ、ぽまで絡んでぇ……っ」 『中でも素晴らしい輝きの魂を持つ九蔵の性気は練り込まれたことで最高の味に仕上がっていた……! もっとその味に自信をもっておくれ! 意識がない時のつまみ食いより、断然美味である! 特に絶頂寸前の高まった性欲は千年味わっても飽きない味があり、人間には感じ取れないだろうが熟成されたワインのような香りがたまらなく……! ある程度青年のコクがありつつも、混じりっけがないあの味は、最高品質……!』 「人のことを年代物のワインみたいに、ゲホッ、ちょ、ンぐ、ニュ、ぅんっ」 『そう! ウブな少女のように未経験──初モノの味わいだ!』 「確かに俺は童貞ですがわざわざ言わないでくれませんかねぇっ!」  ──二十四歳で童貞は遅くないッ!!  九蔵の心からの悲鳴は、小さなアパートに響きわたったのであった。   ◇ ◇ ◇ 「ぐふぅ……ニューイ、とりあえず説明しなさいな……悪魔の能力ってなんだ……包み隠したら酷いぞ……」 「うっ、うむぅ……っ」  解放された九蔵は死なずに済んだ。  青と赤の混じった酷い顔色だった九蔵は、ゼーハーと息を整える。  九蔵から引き剥がされて姿を人間に戻したニューイは、小さくなって昨夜の事情を説明し始めた。  まず魂について。  魂は悪魔だとしても決して触れられない。お互いの同意がなければ奪えないものだ。多くは契約による。  そして魂を囲っている器は、人間の体の中を骨格のような形で通っているもの。  茹で卵の薄皮のような弾力のそれに悪魔が触れると、人間は脳や精神に直接作用する、暴力的な快感を感じてしまう。  そして快感は、触れる場所が体の中心部へいくほど強く感じるものだ。  ニューイは肩だけでなく九蔵の胸の核心を握った。一番気持ちがいいところ、という言葉通りの場所だ。  おかげさまで、九蔵は呼吸がままならないほど強烈すぎる津波に溺れ、一気に正気を欠いてしまう羽目になったのだ。

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