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「ほら、見てみ」
『九蔵〜……桃色のたまご焼きなのだっ』
「明太子な。こっちのは梅しそ巻き」
『ふおぉぉ……! 九蔵、この銀紙にくるまったものたちはもしや』
「おにぎりな。のりたまちゃんとシャケ、梅、おかか昆布。梅入れときゃ腐りにくいんだよな」
『ほほう……!』
ヒョイヒョイと片手間に料理を進めつつニューイに中身を説明すると、ニューイは感動してカラコロと音を鳴らした。
『おにぎりは一段目だけかい?』
「そ。でもナスが主食ラブなんで、サンドイッチも作った。冷蔵庫で馴染ませ中ですよ」
冷蔵庫に目をやると、『確かにそう言っていた』とニューイが頷く。
澄央はご飯ものとパンもの、麺もの愛好者だ。おにぎりだけだと野菜を食べない。
なのでサンドイッチには野菜たっぷり蒸し鶏サンドと、ハムたまごサンドを用意している。
出先でダレないよう、パンをトーストしておくひと手間もかけた。切り落とした端っこは朝ごはんにいただきましたとも。
「あ、そういえばニューイとズーズィって好き嫌いあるか?」
『ん? 私はたまごが好きで、嫌いなものはないぞ。魂以外だと、ズーズィはおいなりさんとコーンが好物だ。嫌いなものは緑色の野菜全般だ』
「はー……これまた典型的ないい子ちゃんと困ったちゃんだな……」
『ズーズィは生野菜だと、噛みついてでも食べないのである』
ふと思い立って悪魔コンビの好き嫌いを聞いておくと、なんともイメージ通りの答えが返ってきた。
曰く、サンドイッチに挟まっているくらいなら大丈夫らしい。サラダとなると文字通り〝殺してでも食わない〟のだとか。
九蔵としては、コンソメで茹でるひと手間をかけた彩り用のブロッコリーくらいは食べさせたい気分である。
まぁ悪魔が人間の病気にかかることはないだろうし、他所でお呼ばれすることもあまりなさそうなのでなにも言うまい。
『ふふふ、九蔵の嫌いなものはピーマンだと聞いたぞ? 私が代わりに食べてあげるのだ』
「…………ニューイさん、ナスのぶんのおにぎりはお前さんにあげましょう」
『むっ?』
◇ ◇ ◇
それから九蔵とニューイは澄央と合流し、ズーズィと落ち合って目的地に向かった。
天候は晴れ。
絶好のお出かけ日和だ。
お天道様がご機嫌だと、さしものインドア派といえど気持ちがウキウキと浮つく。
というより、大人になってからできた友人たちと出かけること自体が楽しみだった。ダブルデートはさておき。
もちろん恥ずかしいのでそんなことは言わないし、表にも出さない。スキップも鼻歌もなし。いたって平然。
けれど楽しみすぎて寝つきが悪かったニューイの腕の中で寝たフリを決め込んでいた程度には、九蔵は浮かれていた。
おかげで具体的にどこの遊園地に行くのかを聞きそびれていたほどだ。
しかしそれが、命取りになった。
「……油断した……」
ポソリ。呟く。
集合したあとのことだ。
極悪ネズミさんに呼ばれて路地を曲がれば、そこは雪国──ではなく、悪魔の世界だったのである。
そして遊園地ですと紹介されて目の前にあるのは、要塞じみたお城だ。
控えめに言ってクッペ様在住のアレなキャッスルにしか見えない。勘弁してくれ。そして著作権を今すぐ学んでくれ。
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