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「ズーズィさんに遊園地ダブルデートと言われた時……ランドとかシーとかユニバーサルな遊園地だと思っていた時期が、俺にもありました」 「アハッ! だってボク悪魔なんだから悪魔の世界の遊園地に決まってんじゃあ〜ん!」  光の無い目で呟くと、隣の嫌がらせ大好きないじめっ子悪魔がケタケタと高笑いした。  これが死なずにいられようか。  一旦帰って作戦を練ろうと振り返ったが、帰り道が無くなっていた。  死なずにいられようか! 「なんで空が緑なんだ! なんで蛍光グリーンの沼地のど真ん中にキングキャッスルがあるんだ!」 「今日晴れだし普通緑じゃね? あ、この沼地に人間が落ちたら溶けるからぁ〜」 「なんで溶けるような沼地にテーマパークを作ったのか人間にはわからない!」  頭を抱えて唸る九蔵に、ズーズィは腹を抱えて笑いながら「悪魔溶けても死なないしスリルあるほうが愉快じゃん」と言う。  悪魔と人間では愉快という言葉の意味が違うのだろう。  そう思わなければ、九蔵のハートの安寧が保てない。  あと九蔵の姿に擬態するのはいい加減やめてほしい。シャレオツファッションで差をつけるのもやめてほしい。一応こちらもシャツはおニューなのだ。  対して〝個々残九蔵を愛でる会〟の二人は、のほほーんとなんの疑問も抱かずに和んでいる。 「ヤベー某クッペ様のキャッスルとか激アツじゃねっスか」 「ここは悪魔の王様が人間の作ったゲームにハマって建設したお城なのだよ。悪魔の遊園地はアトラクション施設である!」 「マジスか。俺ら残機なしスよ」  配管工と違い、人間の九蔵と澄央にはコンティニューなんてあるわけがない。  悪魔基準のアトラクション施設と聞いて、九蔵はゴクリと唾を飲んだ。  かなり嫌な予感がする。  ズーズィがケタケタと笑いながら尻を揉んでくるが、ツッコミを入れる余裕もない。 「やっぱ結果にコミット、しとくんだったな」 「アハッ! ま〜だいじょぶ〜! ボクの仮契約者だし、ケツだけは守ってあげるからね〜」  できれば命も守ってください。  そう思ったが、相手は命を預けるには心もとない悪魔なので、大人しく尻を揉ませる九蔵であった。 「……むぅ……」 「? どうしたんスか、ニューイ」 「こう、九蔵を小さく丸めて、私の口の中に入れておきたいと、たまに思う」 「は?」   ◇ ◇ ◇  悪魔二人とフリーターに大学生というパーティーは、お弁当を装備して城の中に入った。  内装は予想を裏切らないキングなキャッスルである。予想通りだ。もう慣れた。  遊園地というからには他の悪魔もうじゃうじゃとひしめいていると思ったが、人っ子一人いない。それどころか入場ゲートもチケット売り場もない。  強いていえば、あるのはなんの変哲もない五つの扉だけだ。どれも同じで、行き先の検討もつかなかった。 「悪魔の遊園地は、フリーパスなのだ。一緒に入った者たちを一組として隔離する呪いがかかっているので、他の組とすれ違うことは絶対にない」  どういうことかと尋ねると、九蔵にピト、と肩をくっつけて離れないニューイがにこやかに答える。  つまり全員が貸切状態ということだ。    そして、ピト、っとするのをやめてほしい。近い。照れる。好きだ。

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