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 まさか推しに尊まれるとは。  普段は自分がしんどい無理意味がわからないとキレているので、妙に感慨深い。  というか、かなり嬉しい。  ニューイが妙に自分を避けてズーズィや澄央のところへ遊びに行っていた時、話題にするべく料理本を読んでよかった。  胸がいっぱいで進まない食を、箸を置いて終わらせる。  九蔵は頬の赤みを悟られないよう平静を装い、やったーやったーうれしーい! とうるさい脳内の小さな自分を、麦茶で流し込んだ。 「あぁぁ~……是が非でも九蔵のお嫁さんになりたいのだ……」 「あぁうん。やっぱお嫁さんなのな」 「九蔵は男だからな」  正座をして右手におにぎり、左手にフォークを刺した玉子焼きを持っているニューイは、当然の顔をして頷く。  微かに喉奥が苦かった。  そういえば、初めからお嫁さんになると言っていた。これも神様のヒントだったのだろう。 (馬鹿だな。さっさと気づいてりゃ、もう少しうまくやれたかもしんねぇのに)  そう考えて、すぐに思考を改める。  自分が男だからニューイに抱かれない。  だが、自分自身を愛してもらえない理由は彼がイチルを心底愛しているからだ。  性別は関係ない。  ニューイの過去を知ってしまった。 「ああ、本当に困ってしまう」 「うまいんならいいだろ? また作ってやるから、全部食べちまえよ」 「そういうところだ、九蔵」  意味もなく乾いた喉を潤すと、ゴクンと食事を飲み込んだニューイが正座したまま九蔵を伺い、肩を丸くした。 「イチルにお弁当を……いいや、手料理を作ってもらったことはない。というより私は、人間の食べ物を食べても意味がない」  元の姿を見ただろう? と問われる。  悪魔姿のニューイは、ほとんどが骸骨だ。四肢は剥き出しの筋肉を思わせる肉がへばりついているものの、内臓はないだろう。 「食べたものは即時塵になる。私の血肉にはならない。だけど、イチルとの食事の時間が好きだった。共有する食事を大事に食べたのだ」  嬉しげに微笑む。  初めて出会った時からニューイの笑顔は、九蔵には眩しかった。目を逸らさずに、笑みを返す。 「イチルを、すっごく愛してたんだな」 「うむ。もちろん今も変わらないぞ? だから追いかけて九蔵と出会ったのだ。ずっと一人でクリアしていた遊園地を大勢で訪れることも、手作りのお弁当をいただくことも、全てイチルがくれた幸せなのだよ」 「ん……そっか」  九蔵は指先を微かに丸めて頷いた。  九蔵とて、イチルがニューイと出会ってくれたから自分を見つけ、今がある。  感謝もすれば、恨みがましくも思った。 「大切な人だ……本当に。わかっていても、このお弁当を食べきるのがもったいなくって困る。……また作ってやるとキミが言うから、余計に困るよ」 「…………」 〝簡単にまた(・・)を与えるこの人をいっそう愛してしまうから、増して惜しくなってしまう〟  そういうニューイの真意なんて、九蔵は知るよしもない。  ニューイが紡ぐ言葉や挙動の全てが、自分一人では得られない、画面の向こうのセリフ枠だと思い込んだ。 「おとぎ話みたいに素敵な恋ってやつかね」 「むっ、それじゃあ幸せになった私がお姫様になってしまうのかい?」 「そりゃ予想外。ま、お前ならドレスも似合うんじゃねーの?」 「むむむ……九蔵が言うなら着こなして見せるが、自信はない……」 「くく、嘘だよ。ニューイは王子様だ」  心からそう思い、笑った。

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