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「私のプロポーズ大作戦が……もはや九蔵がラスボスだったのではないか……?」
「っおわ」
どんよりオーラを纏って二人分の荷物を背負っているニューイは、九蔵をヒョイと抱き上げた。
九蔵は驚くがしっかりと抱く。
このくらいは役に立たねば情けないこと子犬のごとし。
結局九蔵がクリアしてしまったので、カッコイイプロポーズができやしない。
自分ではなく恋しい相手がワンパンでラスボスを倒したわけで。
おめおめとプロポーズをしたいと強請るのは、流石の悪魔でも恥ずかしかった。
「久しぶりのリベンジチャンスが……」
とはいえ、口元はへの字に曲げる。
未練タラタラだ。なんとでも言ってくれ。九十八回の全てで本気だった自分は九十八回分落ち込んでいるのだから。
「クリアできるまでまた何度でも来ようなんて、俺は嫌だからな」
けれど、九蔵はニヤリと笑った。
ニューイの肩に手を置き、ニューイの目をじっと見つめる。
「だから、今日……ちゃんと約束通り、お前はクリアしてくれたよ」
「へあっ?」
思わず素っ頓狂な声が出た。
なにを言っているのだろう?
九蔵は諦めないと言うニューイに嫌だと言った。もうチャンスを与える気がないから、コントローラーを奪ったんじゃないか?
「ど、どうして私がクリアしたことに?」
「だってお前がコントローラーを握って、お前の指で操作して、クリアした」
ニューイはヒナのように見つめ返す。
クリアしていない。九蔵がニューイの手を押さえ、指を操ったのだ。屁理屈というものである。
「おマヌケニューイ」
「あたっ」
しょぼくれた顔で言うと、九蔵はカラリと笑ってニューイの額をパチンと弾いた。
ちっとも痛くない。けれど九蔵にデコピンをされると凹む。上目遣いに伺うと、九蔵は打って変わって、柔らかく頬をゆるめる。
「俺は、ハッピーエンドが好きなんだよ。お姫様を愛する王子様が報われるような、な」
(──…………っ)
ほどけるような九蔵の微笑みを前に──ニューイの胸はドキン、と一息に収縮して高鳴った。
空っぽの脳に、記憶が蘇る。
魂を除けばどこにでもいる普通の人間に違いないが、初めて無邪気に笑ったこの青年を、自分は〝愛らしい〟と思ったこと。
もっと見たいと思った。
かわいがりたいと、触れたいと。
けれど今目の前にあるこの微笑みは、とても──……とても、〝美しい〟と思った。
この世に、彼の微笑みより美しい絵画はないだろう。
そう心底確信する。
目を、声を、心を、奪われる。
「……は……」
その理由を理解しないニューイは、息を飲み、言葉を失った。
頬が焼けそうに熱い。
視線が逸らせない。
人間の男の微笑みに、途方もない時を生きる悪魔が気圧されている。彼の手が触れる肩が、くすぐったくて身悶えそうになった。
「……そ……それじゃ、まるで私がプロポーズをされている気分だ……」
やっと言葉を紡ぐ。
紡いだと思えばこの口はバカなことを言った。それほどのことなのだ。
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