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だって、見ていれば煩わしい悪魔の求婚を受けずに済んだものを、わざわざ屁理屈を使ってまで手助けした。
ニューイの想いを受け入れれば、契約により魂は輪廻せず、煮るも焼くも自由なニューイの物になる。
悪魔の世界にあるニューイの屋敷で、二人永久に暮らす。
自分にとってそれは至福の極みだが、初めてプロポーズをした時、九蔵は知らない世界で永遠に暮らすなんて嫌だ、と言っていた。
にも関わらず、きっかけを与える。
まるで、ニューイを幸せにしようとしているような行動だ。
心臓がバクバクとうるさい。そうしてもいいと、思ってくれたのなら。
「九蔵は、わ、私のことを……?」
受け入れる気になったのか、と。
──恋しいと想ってくれたのか、と。
そんな考えに思い至ると、体温がジワリと上がった。
触れ合って、優しくされて、恥ずかしいなどと思ったことはなかったはずが……今は、嬉しいよりも、恥ずかしい。
「どうかな……試してくれるだろ?」
九蔵は眩しそうに目を細める。
ニューイは唇を噛み、眉を曲げた。
──ああ……その視線で、私という存在が溶けてしまいそうだ。
蜜飴のようにとろけてとろけて、キミの指に絡みついた私を、その濡れた舌で味わってほしい。キミが欲しい。
キミの舌触りは、香りは、味わいは、色は、形は、キミを構成する全てのものは、私を捕らえて離さないのだ。
──すぐに死んでしまうのに、遺される悪魔 をたぶらかすなんて……人間は本当に……悪い生き物だな。
「個々残 九蔵、私と結婚してください」
「はい」
飾りっけのない言葉を伝えると、九蔵は迷うことなく肯定し頷いた。
記念すべき瞬間。それにしては、あっけない。カァァ、と真っ赤になって身をもじつかせるニューイと違い、九蔵は楽しげに歯を見せて笑うだけだ。
余裕がなくてかっこ悪い。それに実感が湧かない。念を押して尋ねる。
「あの、一応確認だが、ほ、本当の本当かい? 本当の本当に、いいのかい?」
「なんだよ。俺が嘘を言ってるってか」
「いや! 九蔵を疑うなんてとんでもない!」
ブンブンと首を横に振った。
ニューイが九蔵を疑うなんてありえない。地球が四角いと言われたってなんの疑問も持たず信じるのがニューイだ。
「そんじゃなにがご不満かね。前世から追いかけてきた魂さんが、ついにお前のものになるって言ってんのに」
「ふま、不満なんてないぞ。ただ、幸せ過ぎると信じられない。だって契約を終えれば、もうキミを失うことはないのだよ? だからこそ、もし幻ならば早めに解けねば……」
ウロウロウロウロと意味なく歩く。
顔は真っ赤だ。
もう離れることはない。毎日九蔵と暮らす。
一緒に寝て、一緒に起きて、洗顔も歯磨きも全て一緒にする。食事だって三食同じだ。煩わしい電化製品との戦いも終わる。
九蔵はアルバイトに行かずに日がなニューイとお話をして、平和で安全な屋敷の中でずっとずーっと暮らすのだ。
「うふ、ふふふふ」
「それもう贅沢な監禁生活ですよね……」
想像しただけでマヌケに頬が緩む。九蔵が呆れていることには気づいていない。
ウロウロしていたニューイは、気持ちの赴くままにいつのまにやら九蔵を抱いたままクルクルと回り始めた。
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