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 バタン! と背後でドアが閉まる音が聞こえる。ズカズカと廊下を歩き去り、早足に階段をかけおりた。  人通りの多い道に出て、せっかちな足取りでうまい屋を目指す。 「……っ……あっちぃ……」  ほんとにもう、馬鹿野郎だ。  悪魔は悪魔だから、乙女ゲー愛好者の俺が極度のリアルロマンス発火病だなんて、これっぽっちもわかっていやしない。  結局俺にゃ甘え力も彼女力もないもんで、あんな渡し方しかできなかったしよ。  恋人らしいことが凄く嬉しいのに、恥ずかしい。……ん、ですよ。ね。  俺だって、もっとたくさんニューイと触れ合いたいのだ。  ずっと一緒にいて日がな呑気な話をしていたいとも思うが、ついなんでもない顔をして誤魔化してしまう。  バカなこと言うなよと呆れて、内側じゃチビな俺がてんやわんやと騒がしいのが常。キャーニューイかっこいー! って、はい。バカは俺です。はい。  そうして歩きながら手持ち無沙汰な手を上着のポケットに突っ込むと、指先にカサ、となにかが触れた。  俺なんか入れたっけか。  何の気なしに取り出すと、それは玄関で外した付箋とは違う付箋だった。  いつの間にやら、ポケットの裏側に仕込まれていたらしい。癖づいているもので、何気なく確認する。 〝もしこのメモに気づいてくれたのなら、上手にマテができた私を、今夜ベッドで褒めてください〟 「へぁっ……」  付箋に書かれたメモを読んだ途端──俺はみるみるうちに頭のてっぺんまで熱が上って、その場に立ち止まった。  しばらくメモを見つめて、そっとポケットに戻す。  それからそっと近くの電柱に両手を着いて、そっと項垂れる。  ズルいメモだ。  いいや、違う。ニューイがズルい。いつもいつも、アイツはズルい。  もし気づいてくれたのなら、と、俺が知らんぷりして逃げられるようにしながら、淡い期待で夜を待つ。  そんな言い方をしたら、結局俺は自分で選んで抱かれに来いと言われているのと同じじゃないか。 「あぁぁぁ……もぉぉぉ……っ」  ゴン、と額をぶつけた。  俺がお前の誘いに乗らないわけがないって、知らないまま、ソワソワと俺の帰りを待っている悪魔な恋人を恨めしく想う。  俺は誘いに乗らないわけねーんだから、バイトが終わって帰るまで、ずっと「帰ったらニューイを誘ってセックスする」と自覚して働かなきゃなんねーんだろ?  つまり俺にしか見えない枠で、今日は「※涼しい顔をして働いているが、この店員はバイトが終わったら彼氏に抱かれるのである」というキャプションを付けていなければならないのだ。  ……で、更に問題がもうひとつ。 〝本日のTodoリスト ・洗濯物を干して取り込む ・玄関掃除 ・掃除機 ・風呂掃除をして湯を溜める ・俺とお風呂に入る  ※俺は明日お休みです〟 「もぉぉぉ〜……っ」  自分がメモを装って書いた夜のお誘いとニューイのオネダリがダブルブッキングした事実に、俺はしばらく電柱に縋りつくのであった。  結局、夜はどうしたのかって?  ヒントは洗いっこ。……後は察してください。死んでしまいます。  了  フォロワーさん555人、未熟な木樫でありながら、身に余る光栄であります。  お蔭さまで感じたハッピーやホッコリを少しでも返せれば嬉しいですぞ(照)  いつも作品を閲覧下さり、ありがとうございました! これからも頑張りまする!  木樫

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