172 / 459

172

「って言ったらどうするんスか?」 「ん? どうもしないよ」 「ナイススマイル」  にこやかな笑顔をうかべるニューイに、澄央はグッジョブと親指を立て、冷ましておいた豆腐をツルツルと食べる。  ニューイもエビを頭から殻ごとバリバリと噛み砕き、オレンジジュースで喉を潤す。  澄央の冗談が本気かどうかなんて、ニューイは知らない。  知らなくても澄央は盟友で、変化のないことだ。一応確認をとっただけである。 「それはちょっと危機感なさすぎじゃねースかね。こんな言い方してるけど実はガチで、ニューイからココさん奪うかもしんないスよ? ココさん、甘えん坊に弱いスから」  澄央がズズ、と汁を飲んで言う。  カニをバリバリと殻ごと食べていたニューイは、ノンノンと首を横に振った。 「危機感はあるぞ? だけど、今とやることはあまり変わらないのだ」 「と言うと?」 「九蔵の目に映る私が、真木茄 澄央より、越後 明日夏より、魅力的であればいい。そのためにめいっぱい努力するのである」 「……ほー……」 「自分のいいところが見つけられないのだから、当然だろう? 常により九蔵に好かれる方法を考えておく。ポンコツでドジばかりの私だが、手に入れたものを大切にすることは得意みたいだからね」 「ニューイの顔以外を、久しぶりにマジでかっこいいと思ったス」  フフフ、と笑いながら茶目っ気たっぷりにウインクするニューイ。  澄央は目玉をぱちくりとさせながら、しばし見惚れた。  撮影をしたあとの足で食事にやってきたので、髪型も服装も増して色男だ。  それのお陰であろうとも、かっこいいと言われるのは誇らしい。九蔵のニューイは、かっこよくいたい。 「ま、心配しなくても、嘘偽りなく俺はココさんに恋愛感情を抱いてねース」 「だろうね。私に嫉妬せず越後 明日夏に嫉妬するキミは、誰よりナンバーワンで九蔵にかわいがってもらう立ち位置を死守したい、と見た」  ニューイは「九蔵のお嫁さんになりたいわけじゃないのだ」と言いながら、キノコを口にした。  澄央はお箸を置き、オッケーの形を作る。もう片方の手はお茶碗を持っている。お行儀のいいハラペコくんだ。 「私は真木茄 澄央を盟友として、信頼しているぞ。あの日の言葉を疑ったりしていないのである。なんせ、私は真木茄 澄央が大好きだからね!」 「ふーむ。ニューイのわかりやすい友情が染みるスね。俺も大好きス」  ヒョイ、とグラスを上げるので、ニューイはカチンとオレンジジュースの入ったグラスを触れ合わせた。  グビグビと中身を飲み干したあと、どちらともなくニンマリと笑顔を咲かせる。 「ココさんみたいな、口では聞き分けのいいフリをして本音は態度で示しまくる友情もいじらしくて好きスよ?」 「フフフ。よくわかるとも。九蔵はいじらしい。相談しないという悪事を働くが、それも私たちが大好きだからなんだ。除け者にされると拗ねてしまうけれど……私は九蔵の愛し方をよーく知ってしまったから、それを含めてとても愛らしいと思うよ」  お互いのグラスに瓶からお代わりを注ぎ合って、ニューイと澄央はニヒニヒとご機嫌だ。  友情でも愛情でも同じである。  気に食わないところもあるしこうして不満も抱くものの、離れていかないのは、やっぱり相手が好きだから。 「ココさん、俺のこと忘れてそうなんスけど。たぶんなーんか考えてるんスね」 「そうとも。真木茄 澄央より越後 明日夏に構いっぱなしなのも、私に越後 明日夏の存在を隠すのも、きっと私の知らない間になにか九蔵の思うことがあったに違いない」 「わかってるス。全力で拗ねてるって言ったら、構ってくれるのも間違いないッス」  深く頷く澄央は、指を一本立てて「で、も」と左右に振った。 「イチゴとココさんの仲は八つ当たりで邪魔したいんで、俺もイタズラしようと思うス」 「イタズラ?」  九蔵に迷惑をかけるのはナシだぞ、という気分なので、ニューイは心配だ。  ちょいちょいと手をこまねく澄央に耳をちかづけ、話を聞く。ふむふむなるほど。ほーうほう。そう来たか。 「……おもしろそうだね」  ──かくして〝個々残 九蔵を愛で隊〟改め〝個々残 九蔵にイタズラし隊〟となった二人は、味噌ちゃんこを挟んでイタズラ会議をするのであった。

ともだちにシェアしよう!