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人前でどうこうや突然どうこうされると人目が気になるので困る。
そういう意味では、本当は言いたい文句が多々あった。
あったが、ニューイはたぶん良かれと思ってこうしてくれたはず。なぜそうしたのかはわからなくても、気持ちは九蔵のため。
なら、まぁ、我慢しよう。
「サプライズデート、ありがとうな」
「む。……うむむ」
九蔵は喉元まで出かけた文句を、ゴクンと飲み込んだ。
計画してくれたことが嬉しいのでお礼を言ったのだが、ニューイはしょぼくれた様子で、控えめに九蔵を呼ぶ。
「どした?」
「キミの好きなロマンチックの世界は、スウィートルームと夜景がテッパンなのだろう? 私は九蔵に喜んでほしかったのだ。ちゃんと嬉しいかい?」
「あ、あー……なるほど。それでスウィート……うん。嬉しいし、喜んでる。ます」
「よかった。それで、私のことを前よりも好きになってくれたかな?」
「……なりました。はい」
好きの最上級を言い表す言葉を知っていれば、心の中ではそれを唱えただろう。それくらいにはもう好きだ。
(……言えねぇけど)
背後のニューイがニヘラと嬉しがるのを感じながら、耳の赤い九蔵は、足の指をいじいじと無意味に弄った。
好きすぎると困る。
だから、自分からはあまり好きだというアピールをできない。照れ屋のムシのせいでもあるが、それはそれ。
とめどなく好きが溢れて、重い男だと思われたらどうしよう。
抱き抱えるのに苦労する愛は、依存になる。依存すると先々不安だ。
万が一を思うと平気なフリをしていたいから、普段から度量の深い男を装う。
わかりやすく示してやれない。
その代わり、ニューイのやることなすことを全て許すことが、九蔵にとってめいっぱいの愛情表現。
ニューイは素直なのに、自分だけがいつも臆病だ。不貞腐れた気分になる。
「あのさ……気にしてないって言ってたけど、ちゃんと説明しとくな」
足の指をいじいじと弄びつつ、ジャグジーで泡立てられた細かいバブルを眺めて素知らぬ顔を装い話した。
言い難いことでも、ちゃんと言っておかないといけない。
ここだけは、ビビリじゃダメ。
「あの日、俺はナスの髪をくくってて、それをシオ店長が茶化しただけなんだ。ラブロマンスはシオ店長のジョークだぜ。あの人、ジョークがわかりにくい人なんだよ」
「そうだったのか……うむ。改めて、私は二人の仲を疑っていないよ」
モソモソと懺悔をすると、ニューイはサクッと許してくれた。
聞けば、ニューイは浮気を疑う、という思考回路を持ち合わせていないらしい。
もちろん嫉妬はする。
だが、どんなに素敵な人が九蔵に言い寄ろうが、自分が恋人になった以上、誰かと二人で食事をしようがどこかへ行こうが、事前に知らせてくれていれば気にしない。
それは九蔵を信じているからではなく、〝愛し合い続けていれば、心配する必要がないからだ〟と言う。
今相手を愛している自信より、今相手に愛されている自信。離れている時こそ、それさえあれば問題はない。
「伊達に長生きしていないからね。私は変わりゆく機械に弱いが……人の心は、昔からあまり変わらない。愛し合うためには、縛ることではなく寄り添うことが一番重要だ」
なんでもないふうに言われた言葉たちは、九蔵の心にストンと落ちた。
かっこいい。
そんな考え方ができて、実際そういうふうにしていて、なんと言うか、凄く素敵な男だと改めて実感した。
実はベッドでの振る舞い以外でも、こうやって学ぶことは多いのだ。本人は気づいていないが。
「なら、ニューイは不安にならないだろ? 俺は友達も少ないから浮気する相手がいないし、インドア派だからな」
「うっ……いや、そうでもない」
九蔵が冗談めかして雑談のつもりでそう言うと、ニューイは首を横に振り、九蔵を抱きしめる腕の力を少し強めた。
「その、実は、今も不安があるのだ」
「っへ……?」
ニューイは言いにくそうに口元をもごつかせて、小さく囁く。
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