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◇ ◇ ◇
ニューイに連れ去られてしまった九蔵は、どういうわけか、観光客に人気のオシャレなホテルへチェックインすることになった。
姿が見えなくなる呪 いをかけてくれていたので、バッサバッサと空を飛んでも問題にはならない。
だが、なぜお高いオシャレホテルへ連れてこられたのか。
しかも、スウィートルーム。
画面の向こうでは何度も数多の男と一夜を明かしたお馴染みのスウィートルームだが、リアルでお目にかかったのは初めてだ。
どこかの城の一室を思わせるインテリアが、二人で泊まるには広すぎる空間を彩る世界。乙女な九蔵の理想的なロマンチックではある。
が、なぜ連れてきたのだろう。
天蓋付きのダブルベッドが夜景を一望できる大きな窓の真ん前に設置されているのを見つけてしまい、九蔵は死にそうになった。
九蔵が無言で真っ白になっていようとも、ニューイはお構いなしだ。
スウィートルームに入るなり鍵をかけ、豪華な室内や夜景に感動することも特になく、パチンパチンと悪魔能力の大盤振る舞い。
普段は能力を使わないように心がけているニューイだが、実際、悪魔能力はなかなかにチートである。
広々としたジャグジーには勝手に乳白色のお湯が溜まるし、風に乗ってバラが散らされ、数秒で舞台が整った。
ニューイと九蔵の衣服だってひとりでに脱げていく。
ボディソープはたっぷりの泡に変化し、九蔵は浮かんでいるだけで全身隅々洗われる始末。
ピチピチと潤った九蔵はニューイに抱き抱えられ、一言も話さないうちに、ジャグジーにつけられてしまった。
そして気づけば、ニューイと強制バスタイム。入室から五分もかかっていない。
「……俺、誕生日今日じゃねぇけど」
九蔵は呆然とつぶやく。
スウィートな世界に招待されるとすれば、理由はそれくらいだろう。ゲーム的には。リアルなんて知らない。
そう言うと、体育座りで硬直する九蔵を足の間に座らせ背後から抱きしめているニューイは、九蔵の肩に顎を置いてフフフと笑った。バカ。笑い事じゃない。
「この部屋は、前から予約しておいた部屋だ。もともと今夜はキミをここへ連れてくる予定だった」
「なっ……んの記念日でもねぇのに?」
「うむ。強いて言うなら驚かせたかっただけだから、ビックリ記念日だな。今日は九蔵と私のビックリ記念日の、デート。今朝、サプライズだと事前に言っておいただろう?」
「…………」
そりゃあ言ったが、それはイタズラのことだと思っていたじゃないか。
ここに至るまでに蓄積した羞恥が爆発するので顔を振り向かせられない九蔵は、黙ってニューイの頭に自分の頭をゴツ、とぶつけた。
悔しい。それに酷い。好きだ。ずるい。初めてのデートが、これだなんて。
(こんなとこ行くって知ってたら、もっとちゃんとした服着たのに……!)
九蔵はブクブクとジャグジーの泡に埋もれて、爆発寸前の羞恥を思い出し、耳まで赤くなった。
嫌かと聞かれれば大歓喜と答えるが、ニューイに見合う男になりたいと思っている九蔵は、人目を気にするのだ。
ニューイは服装も決まっているし、イケメンだ。オシャレホテルがよく似合う。
対して九蔵はスウェットにジーンズで、バイト上がり丸出しだった。
ニューイが巻いてくれた質のいいマフラーが浮きまくっている。
そんな九蔵がニューイに抱えられているわけで、ホテルマンのプロ根性溢れる笑顔からは、思いっきり「なんでやねん」という無言のツッコミが透けていた。
しかし他人の視線なんてものともしないニューイは、素晴らしいスマイルで
『驚かせてすまないね。ドレスコードがあるなら申し訳ない。だけどどうか、気にしないでほしい。彼が私のお姫様だと見せつけたくて、拐ってきてしまったのだ』
と言ってのける。
これにはホテルマンも密かに見ていた客たちもニッコリ。
運ばれていた九蔵は、今すぐ地面に埋まりたいと願っていた。地獄のエントランスイベントである。
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