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第四.五話 アベコベ店長と拙者こもごも
ニューイお迎え騒動INスウィートルームを終えた日の翌日。
今日も今日とてアルバイトを終えた九蔵は、休憩室にて、越後と澄央に夕飯を奢っていた。
六人ほどがかけられるテーブルのすみに三人でかたまり、うまい屋のヤング男子アルバイターたちは飯を食らう。
九蔵はうまい屋御膳。
澄央は三種のカツとじ丼(ミニ牛丼オプションプラス)。
越後は肉マシ牛皿定食である。
チョイスに性格が出ている、と九蔵は密かに思っている。
奢りの理由は、越後は言わずもがなニューイの件なのだ。
澄央は本日シフトがかぶっていないのだが、最近塩対応だったことの説明とお詫びに、と声をかければ自転車を酷使してすっ飛んできた。
越後への嫌がらせ兼九蔵へのイタズラを仕組んだくせに、しょうがない友人め。
しかも食べながら事情聴取をすると、実はニューイがお迎えにやってきた時は建物の影に隠れてイタズラ現場を眺めていたと言うのだから驚きだ。
全く気づかなかった。
ちなみにズーズィもいたらしい。交換条件だと言う。全く気づかなかった。
本来ならニューイがイタズラであることを明かして二人を呼び〝ドッキリ大成功~!〟というプラカードを持って出てくるはずだったのだが、ニューイが突然飛び去ってしまい、計画がおじゃんになったのだ。
それに関してはなにも言うまい。
ズーズィも悪魔だということは越後には内緒である。たぶんなんやかんやですぐバレると思うが。
置いてけぼりだと不満げな澄央の頭を九蔵がなでると、越後は胡乱気な視線で九蔵たちを貫いた。
「仲良きことは僻みなり。お上がナス殿とココ殿のラブロマンスを勘違いしたのは頷けるでござる。正直新参者の拙者でもわかるくらい、うまい屋中から〝付き合ってんの?〟がここまで出かかってたでござるよ」
ここまで、と越後は喉のあたりを手の側面で示す。
むしろうまい屋のメンバーがみんなここまで出かかっていたが言わなかったことをスパッと言った榊は凄い、とも言った。
ガタガタと震えている。
引継ぎノートの書き直しがスパルタだったのだろう。ご愁傷様だ。
「拙者は異性同性関係なくリア充は爆破タイプ故、そこらは興味がないでござるが」
「あー……俺たちそんなにべったりしてるか?」
「してねス。足りてねぇスね」
九蔵と澄央は顔を見合わせる。
なんでもかんでも大食らいで欲しがりな澄央はいつも足りていないので、気にすることでもない。
「イチゴくん偏見ないみたいだから言うと、俺はバイでさ。ナスしか知らないと思うけど、なんかそういう空気出ちまってたのかもな」
「偏見ないでござる~。ココ殿はなぜか嫌いになる行動や言動を全くしない、という謎の特殊技能がござるでな。殺意しか湧かないイケメン悪魔の彼ピッピとしても許すのじゃ」
「お、おぉ。そっか。ありがとな」
「俺はオープンゲイッスよ。お前は好みじゃねぇ」
「拙者が対象かは聞いてないでござるしナス殿を掘るのも掘られるのも御免被るが腹立たしさしかないのでナス殿限定で偏見して参るッ!」
「かかってこい」
「おやめなさい後輩たちよ」
ナチュラルに喧嘩を売りナチュラルにバトルへ発展した二人に、九蔵は仏のような悟り顔で仲裁に入った。もう慣れている。
ちなみに、越後はニューイのことが嫌いだ。人柄、悪魔柄が嫌いなのではなく、もう反射の勢いで嫌いらしい。
憎むべき悪魔なのに、どうしてか人当たりがよくて優しい。
しかもイケメンでスタイルがよく、コミュ力が高くて誰にでも親しみやすくほとんど悪感情を抱かないナチュラル人格者。
職業モデル。彼氏持ち。
本当は生活能力がポンコツで世間ズレした常識知らずな部分があるのだが、そんなことは知らない越後にとってニューイは相容れない存在なのだ。
九蔵の説明によってニューイが無害な悪魔だとわかってもらえたものの、同時に個人的にいけ好かない男、というヘイトを芽生えさせてしまったということである。
おかげで越後は引っ越しの挨拶時、持ってきたハンドソープを「今後ともよろしくお願いしまァァァァすッ!」とニューイに全力投球した。
ニューイ本人はヘイトを抱かれていること自体感じていないらしく、ニコニコ笑顔でキャッチし「おお、ありがとう。よろしくなのだよ」と普通に対応していたのが幸いだ。
一応二人きりの時にも傷ついていないか聞いてみたが、自信満々のドヤ顔で「無傷である。キャッチしたからね!」と言われた。
ド天然光属性悪魔様は最強である。
九蔵はニューイを無言でなでた記憶だ。
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