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「嫌かい? こうすれば変身能力のない人間でも簡単に仮装できるのだが……」 「人間は二千六百度で焼かれることを簡単とは言いません。改めてください」 「むむっ……! だけどこれ以外となると、ズーズィがおふざけでくれた衣装に普通に着替えるくらいしか方法がなくてだな……!」 「普通が一番スよ、ニューイ。てか後で普通に写真撮っていスか。俺も普通に仮装するス」 「うむ、構わないよ。なら真木茄澄央は笑い猫の衣装を着るといい」 「了解ス」 「俺も撮、じゃねぇ。ナスはなんでそんな普通に順応してんだ。なんかもう普通ってなんだ。俺はそもそも仮装するのが嫌ってか、今日割とシュっとした服着てきたしこのままでいいと思うんだけど……」  疲弊する九蔵の普通は、ゲシュタルト崩壊を起こしかけていた。  そんな九蔵の言い分を叶えたいニューイは、むむ、と渋い顔をする。 「私も九蔵はそのままで魅力的だと思うが……悪魔のパーティーで人間が丸のままいると、ディナーと間違えて食べられてしまうかもしれないぞ?」 「…………」 「もちろん守る! が、このアリスちゃんの衣装を着るとより安心できるのだよ」 「…………」  九蔵は「俺最近女装ばっかりしてる気がする」と心の中で呟き、心の中でホロリと男泣きをした。   ◇ ◇ ◇  てんやわんやしつつも仮装を終えた四人は、悪魔城に登城した。  黒を基調に金、赤を差した、おどろおどろしい空飛ぶ巨大な洋風の城だ。  下部は球体になっていて、形だけならいわゆる天空の城的なものを思わせる作りである。  ニューイがくれた招待状を持って地面からいくつも生えていた扉を開くと、クリスマスパーティー会場に直通で入れた。  高過ぎる天井にゴテゴテしい。九蔵が憧れたシンデレラの舞踏会を思わせる豪華絢爛で煌びやかな空間だ。  そこで姿かたち様々な悪魔たちが思い思いの仮装をし、ある程度サイズを合わせて縮小したコンパクトな姿でパーティーを楽しんでいた。  すり鉢状に空中まで配置されたテーブルの食事や飲み物を手に、仲間と愉快に雑談する面々。歌を歌ったりダンスをしたりしている面々もいる。  冷静に考えるとカオスである。  本日はハロウィンではなくクリスマス・イブで、悪魔の宿敵の生誕祭前夜だ。  恋人たちがイチャラブする性夜、もとい聖夜で間違いないのだが……。 「「「ウィッウィッシュアメリクリスマス♪ ウィッウィッシュアメリクリスマス♪」」」 「ギャッハッハッハッハ~! デビル芋虫ブラザーズのミニスカサンタダンスとか最高だわ~! オラ、おひねり金塊!」 「お前それ土で作ったパチモンじゃん!」 「見破ったら本物やんのォ! 騙されるほうが悪いしィ?」 「見てこれ人間のドクロで金の盃作ったの~!」 「えっかわいい~! いつの契約者のドクロ~?」 「去年金脈のありか教えてほしがった資産家のイケメン~」 「骨までしゃぶるのうまいわね~! それでなに飲む? 生き血?」 「カシオレ~!」  その悪魔たちが、全力で楽しんでいる。  それでいいのか、悪魔たち。  九蔵はツッコミを入れることを諦めて、チシャ猫をモチーフにした全身着ぐるみに身を包む澄央をチラリと伺った。 「シェフ。これなんスか」 「脳食いキャトルのステーキよ! てゆーかナスちゃんすっごく食べるわね~! 暴食は悪魔の美徳だわ!」 「皿ごとくれ。てか米欲しいス」 「あぁんアタシが丹精込めて作ったお料理がまるでリスのようにひたすら頬袋へ詰め込まれていくぅ……っ」 「シェフ! またこんなとこでグッドグルメガイの胃袋攻めてんのかい!? スーシェフがお呼びだぜ!」 「あぁ? テメェボケコラ下っ端今いいとこだろ黙ってろカスが。は~いナスちゃんシェフ特製針山雲海風濃厚パエリアよぉ~!」 「最高ス」  いち早く順応し手の届くテーブルのごちそうを攻める澄央は、ライブ調理をしていたシェフに気に入られ、望む料理をしこたま食らっている。  テコでも動きそうにない見事なエンジョイっぷりだ。  同じ人間なのにどうしてこうもメンタル強度が違うのだろう。常識に捕らわれた凡夫な自分がアホな気がする。

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