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 ズーズィはズーズィで、なぜか他の悪魔に恐れられていた。  それを面白がって意気揚々と人様、いや悪魔様たちに迷惑をかけに走って行く。 「やっほーマルエゴォ! こないだもぎ取って食ったお前の尻尾ゲロマズだったわ~! 今度眼球抉って食っていい? たぶんゲロマズだけど~!」 「ヒッ! ズズズッズーズィ!? お前最近ずっと人間界で遊んでるんじゃ……!?」 「えー? お前らで遊ぶために戻ってきた的な? ウヒヒッ!」 「う、うわぁぁぁぁ!」 「悪戯ズーズィが帰って来たぞ! 今のうちに逃げろ!」 「もう肋骨マリンバにされるのは嫌だー!」 「俺もスライムボディにおがくずしこたま混ぜられるのは嫌だー!」 「体毛プードルカットにされるのは嫌だー!」 (……うん)  ニューイ虐めが趣味のズーズィがあらゆる悪魔へ絶妙に嫌過ぎるイタズラをしていたことを知ってしまい、九蔵は素早く見なかったことにした。  変に目が合ってイタズラの対象にされたら目も当てられない。そっとしておこう。  そしてアリスちゃんの衣装を回避できなかった九蔵はというと、頭にがっつりヤギの剥製マスクを被っていた。  そんなに嫌ならと気遣ったニューイが貸してくれたのだ。  これにより周りの悪魔からはヤギ人間がエプロンドレスを着ている仮装に見えるので、九蔵のメンタルダメージが半減した。  マスクを被っていても周りはよく見える。仕組みはわからないが、悪魔素材の仮装はなにかと便利だ。  全身着ぐるみなのに食事ができている澄央もしかり。石窯に入る必要なんてない。 「ヤギマスク、むしろすっぴんより落ち着く。女の人が化粧すんのってこんな感じなのかね……って、ん?」  そうしてパーティー会場に入ってから壁際で気配を殺し、周囲を観察していた九蔵は、前方に視線を向けて首を傾げた。  自分の元へ向かってくる人影。  あれは、正しくニューイだ。  両手にオレンジジュースの入ったグラスを持ち満面の笑みを浮かべ、ちょこちょこと小走りでこちらに向かってくる。  だがしかし。  そんなニューイを狙う悪魔が数人。 「むふふ〜九蔵のために実に美味しいオレンジジュースをゲットしたぞ〜」 「お? ダメっ子ニューイじゃん」 「珍し。巣から出てきてんの? んじゃケーキ投げるべ」 「投げるべ。やーい泣き虫ニューイ~! 顔面ケーキィ~!」 「んッ!? アッシェとマーリ、久しぶりなのおあッ!」 「ポンコツニューイ~落ちこぼニューイ~」 「ど、どうしてケーキを投げるんだいっ? ケーキは食べるものなのだよっ」 「ミソカスニューイ~骨弱ニューイ~」 「あぁっ、しかもなぜ甘々クリームたっぷり大王イチゴのショートケーキをチョイス……っ!」 「「薄ノロニューイは弱虫毛虫~!」」 「うぅ、避けられない……! 食べ物を粗末にすると九蔵に叱られてしまう……! 私は九蔵にオレンジジュースを届けたいだけなのに……!」  ──うちの悪魔様が虐められている! 「う、うぉぉぉ……ッ!」  無作為に投擲されるショートケーキを悪魔能力で空中に静止させながら涙目で進むニューイに、九蔵は全力で助太刀に参った。  引きこもりのインドアオタクにあるまじきスタートダッシュである。  それだけ焦っていたということだ。  なんせ彼氏がこれ以上ないくらいわかりやすく迫害されているのだからな! 「なんか来たぞ!? ヤギが来た!」 「真顔のヤギだ! 真顔で来る!」 「すみません俺の連れに何か御用ですかね? そしてそれはケーキを投げなきゃいけないことですかね? よろしければ俺がお話お聞きしますがご機嫌いかがでしょうか!」 「悪魔にあるまじきめっちゃ丁寧!」  本気ダッシュで迫りくるヤギ頭のアリスちゃんに恐怖した悪魔たちは「逆に怖い!」と慌て、尻尾を巻いて逃げて行った。  その程度の軽い気持ちでうちの悪魔様を虐めないでほしい。  いやガチめに虐められても困るが、ニューイをセコムする九蔵の気持ちはガチガチのヘビィ級である。必死さが違う。  ゼェハァと呼吸を乱し、フヨフヨとケーキをテーブルに戻しながら両手で顔を覆っているニューイに駆け寄る。 「だ、大丈夫か? ニューイ」 「大丈夫じゃない。九蔵がかっこよすぎる」 「大丈夫ですね」  真剣な声でそう言うニューイに、九蔵はペシ、とデコピンをした。  ……本当はかっこいいと言われて若干照れていたが、それは秘密である。

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