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  ◇ ◇ ◇ 「アイツもオマエもキミもユーも首首首首ッ! 首をッ刎ねてッおしまいッ! ア~ハッハッハッハ~ッ!」 「「…………」」 「うむ。やはりズーズィである」  庭木の陰からひょっこりと顔を出す三人は嬉々としてトランプ兵に指示を出す赤の女王──ズーズィを前に、思い思いの反応をしていた。  いや、お城にたどり着いたまではいい。  綺麗に剪定されたバラが美しいロイヤルガーデンで、赤の女王主催のクロッケー大会が開かれていたこともいいだろう。  本当はさっさと裁判をしていてほしかったが、このくらいは許容範囲だ。  仲間であるズーズィが裁判を始めてくれるのを、息をひそめて待てばいい。  だが、フラミンゴを片手に腹を抱えて笑いつつ来賓の首を刎ねまくっているというのは、いかがなものだろう。 「……え、あれ味方? 嘘だろ?」 「味方ス」 「フラミンゴ使いこなしてますけど。誰よりも巧みに操ってクロッケー大会も総なめにしてますけど。自分より下手な来賓みんな死刑にしてますけど」 「ズーズィだからね」 「悪魔かよ……」  九蔵が死んだ顔で呟くと、いつも通りの真顔の澄央が「悪魔スから」と肯定した。悪魔が過ぎる。  ニューイはわかっていたとばかりにうんうんと頷いていた。慣れているらしい。  慣れるくらいこのふるまいは日常なのか。勘弁してくれ。 「あ~クーにゃんたち、じゃねぇや。アリスちゃんたち来るまで遊ぼうと思ってたのに飽きてきたぁ~」  そうして気配を殺し(ニューイが気配を消す呪いをかけたのだ)つつ眺めていると、高笑いしていたズーズィはフラミンゴをポイッと投げ捨てた。 「ハートのセブン~! お腹減った!」 「はぁ~いっ、イチゴのタルトね~!」  ズーズィが呼ぶと、脇に並んでいたトランプ兵の集団から一枚がペッタペッタと走ってズーズィのそばにやってくる。  九蔵はトランプ兵を凝視した。 (なぁんか聞き覚えのある声なんだよな。よく見たら他のトランプ兵の顔にも見覚えがある気が……、……) 「…………」 「お、ミソ先輩ス」 「手作りタルトとか新妻って頑張りがちだわ~っ。こういうの練習しちゃうところが新婚あるあるかしら?」 「ほらココさん、ミソ先輩ス」 「ア~~ッ」  目が狂ったのかと思ったが間違いないと判明し、九蔵は頭を抱えて小声で吠えた。  うまい屋朝の顔、美園 夕菜。  見た目はセクシー美人だが中身は無邪気な夕菜が、なぜトランプ兵になってズーズィにタルトを運んでいるのか。  わからない。全くわからない。九蔵にはなに一つ理解できない。というか理解したくない。 「他のトランプ兵、ちょこちょこうまい屋のメンツじゃねーの……? うわ、おかわりのイチゴのタルト食ってるのイチゴじゃねーかっ。ハートのジャックかぁ〜……! アイツこの後裁判沙汰だな……」 「あぁ、そう言えば主人公の記憶からモブキャラクターはキャスティングされたりしなかったりしたような気がするぞ。本物ではないのだ」 「つまり俺の人間関係がほぼうまい屋だけってことですね」  嘆く九蔵をよしよしとなでるニューイから補足説明が入り、九蔵はその場でムシになりかけた。  好きでぼっち街道を歩んでいたコミュ障なわけだが、サナギくらいにはダメージを負っている。  ニューイに過剰に慰められてなんとか立ち直り、ふと隣を見た。  澄央の姿がない。 「? ニューイ、ナスどこ行ったか聞いてたか?」 「? いいや。聞いていないよ。おかしいな……悪魔の気配はなかったのだが……」 「赤の女王。俺もイチゴのタルトが食いたいス」 「ん? ナッスん?」 「「あ~っハラペコかぁ~っ」」  思いっきりズーズィのそばに出て行っていた澄央を見つけた九蔵とニューイは、同時に額に手を当てあちゃ~とため息を吐いた。  デザート気分な澄央が食後のウォーキングを経て目の前で美味しそうなタルトを見てしまったら、我慢できるわけがないのだ。

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