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 曰く、今日このゲームに初めに入った外の存在である九蔵は、このゲームの主人公に設定されるらしい。  そして主人公の一人の力でハッピーエンドを迎えるのがクリア条件。  しかしどれほどゲームの上手い九蔵でも、リアルガチなゲームじゃあひっくり返ったってソロクリアはできっこないだろう。  なんせ白ウサギ一匹に勝てなかったアリスである。 「いいや。もちろん私がいる限り今後の九蔵は無傷だぞ? 鼻血なんて二度と出ないし、青タンだって増えやしないのである」 「それはありがたいけど……ニューイはよそ者だろ? 俺に手ぇ貸しちゃ脱出できねぇんじゃねーの?」  悩ましく眉をへたらせて言うと、ニューイはチッチ、と指を振った。 「主人公は一人しかいない。が、遊戯室のゲームは大人数プレイができるのだ」 「つまり?」 「仲間を呼んでゲームにキャラクターだと認識させられれば、自動的にキャラクターとして組み込まれる。──仲間がラスボス役になれば、簡単にクリアできる!」 「ブラボー!」  九蔵が思わず拍手をすると、ニューイは照れくさそうに鼻頭を指でくすぐった。  ピコピコピコッと勢いよく短いウサギ尻尾を振れている。かわいい。  ニューイ曰く、ゲームにキャラクター役と認識されたよそ者は、持ち場を無視して主人公を助けることができるらしい。最高じゃないか。 「要するに、私が九蔵を守ることになんの問題もないということなのだよ!」 「うぉぉ……っこれがマルチプレイか……!」  仲間、なんて素晴らしい。  協力プレイモードがあろうがソロ一択のコミュ障ゲーマー九蔵は、初めて仲間がいる有難みを感じて感動に打ち震えた。  そんな時だ。 「ニャーオ」  ローテンションな猫の鳴き声が聞こえたかと思うと、森の中からひょっこりと紫シマの着ぐるみ猫が顔を出した。  二人はそろって猫を見つめる。 「呼ばれて飛び出ない笑い猫ス」 「説明後に登場。いいタイミングだぜ、ナス」 「笑い猫ス。褒められた。よっしゃー」  笑い猫──澄央は両手を上げ、のそのそと脇から出てきた。  実はニューイが、笑い猫はちょうどあの物語に出てくるキャラクターなので澄央がキャラクター役と認識されるだろう、と考えたのだ。  シッポに頼んで会場の仲間を呼んできてもらったのである。 「二人とも、俺がメシ食ってる間に行方不明と大捜査線するのやめるス」 「うっ、すまないね、真木茄 澄央」 「あー……ごめん、ナス」 「笑い猫ス」  九蔵にアップルパイを与えられ、澄央は「いっスよ」とさっくり許して幸せそうにパイを口へ詰め込んだ。  あれだけ食べていたのにまだハラヘリなのか。どうなっているんだ澄央の胃袋は。 「んぐ。流石ココさん。じゃねーや、アリスちゃん。ちょうどデザートが欲しかったところス」 「お前さんホントよく食いますね……」 「そっスか? 悪魔のが大食いス」 「悪魔にとって魂や欲望、感情など以外の食事は娯楽だからね。お腹にたまらないのでよく食べるが……真木茄 澄央は人間である」 「? ハッ。俺胃袋だけ悪魔説」 「ナスくんは人間です。んでそれ食ったら今日はもう食うの禁止な。腹壊すぞ」 「ドイヒー」  省エネ男なアリスちゃん。  本編に登場しない黒ウサギ。  ハラヘリの笑い猫。 「ラスボスはどうせズーズィだろ? 赤の女王コスしてたし」 「そスね。ズーズィも呼ばれてたス」 「なら裁判を開いてもらって、トランプ兵をけしかけてもらえれば簡単だな」 「簡単かい? 九蔵に兵をけしかけるなんて指が出てしまう」 「ハッピー夢オチエンドなんで我慢してください」 「うむ……しかし、うぅむ……」  愉快なパーティーは雑談に花を咲かせながら、お茶会やコーカス・レースなどのイベントを総スルーし、不思議の国のお城を目指して進んでいく。 「人間の世界では大人しいズーズィだが……ここは悪魔の世界だからね……」  ──なにやら悪い予感を働かせる女王様の幼馴染みのぼやきには、気がつかなかった人間コンビであった。

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