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「俺っちぃは前も時計を失くしてよぅ……大きな悪魔なのにぃパーティーで虐められたお前はぁ、ここに逃げ込んだぁ」
「うむ。キミはその時もべそをかいていたね。はは、私たちは共に泣いていたのである。思い出だ」
「ウォン……で、でぇも、お前は泣いてても、時計、貸してくれたぁぜぇ。俺っちを泣き止ませるために、お前は笑ったぁぜぇ」
「ははっ、私はいつも笑っているのだよ。そうだろう?」
「オ、オォォォォン……っ!」
「んっ?」
カラダに見つめられて、ニューイはニコニコと笑顔をアピールする。
そう言われたカラダは、ダバーッ! と滝のように涙を流した。
うん。気持ちはわかる。
ニューイは無差別包容魔なのだ。弱っている時は軽く溶けるだろう。
なにを隠そう、溶かされた記憶のある九蔵である。思い出すと恥ずかしい。
なんて、頬を染める九蔵が少し思考をニューイたちから離していたところ──
「ウォォン、ウォォン、そぉの借りた時計を失くした俺っちにぃ時計をくれるってぇ言うニューイぃは優しぃぃぃっ。アリスゥとは大違いだぁぁぁ」
「むっ……! それは聞き捨てならないぞ。九蔵は優しいのである。それにあんなにかわいらしい……!」
「アリスゥは怖いぃぃ……! ニューイぃは怖いけぇど怒らなきゃ怖くなぁいぃ……!」
「九蔵のほうが優しいのであるっ。そしてかわいいぞっ? かわいいは怖くないともっ。イケタマで美しい私のお姫様さ!」
「アリスゥ怖いぃぃ!」
「かわいいのだよぅ!」
──いつの間にやら逸れる本題。
「…………」
「カラダとニューイは仲良しさぁ。白ウサギは甘いのが好きさぁ? ニューイは白ウサギに甘いさぁ」
「あぁ、うん……甘いもの好きってそういうことな……」
そしてついでに、甘味懐柔作戦が上手くいかなかった理由が判明する。
泣きながらブルブルと震えるカラダと、九蔵がかわいいのだと一生懸命訴えるニューイを前に、九蔵はバッグからきびだんごを取りだしたのであった。
◇ ◇ ◇
白ウサギたちが無事時計を手に入れたことで騒動が丸く納まった九蔵たちは、クリスマスパーティーの会場に戻ろうとした。
しかし遊戯室のゲームは、一度入るとクリアしなければ出られない。
九蔵がため息を吐くと、ニューイに懐く甘ったれたカラダは、ビクッと怯えた。
もう怒っていないというのにすっかり九蔵が恐ろしいらしい。
対して、九蔵に抱えられることに安定感を見出したシッポ。
パーティー会場までお使いに行くのだと胸を張り、バインバインと元気に跳ねる。
ならばよろしく、とメモを握らせてシッポを送り出し──九蔵とニューイはすっかり元気になった白ウサギたちに別れを告げ、旅に出ることにした。
目指すはハッピーエンド。
立ちはだかるは不思議なRPGの世界。
アリスちゃん兼勇者・九蔵のソロパーティーに加入した、黒ウサギのニューイ。
「ふんふん。ふふふん」
「…………」
「ふん、ふふふん」
勇者を子どものように持ち上げながら歩くニューイに抱えられ、九蔵は無言で眉間のシワをグイグイと伸ばした。
実にご満悦である。
笑顔が眩しい。
ヤギマスクは被っていないが、エプロンドレスを着たアレな装いの大人の男一人抱えて、何が楽しいのやら。
……いや、別に嬉しくなくもない。
いつぞやのセーラー服より増して似合わない残念な仕様の男をなんの躊躇もなく愛でる悪魔様に、絆されてもない。本当だ。
九蔵はニューイの肩に手を置き、ご機嫌に揺れる黒い耳をツンとつつく。
「ん?」
「あのさ、具体的にゲームクリアってどうすればいいんだ? ニューイの言う通り助っ人 は呼んだけど……」
「それは簡単な話だよ、私のアリス」
ニヘラ~と締りのない笑顔を見せるニューイに、九蔵はスッと真上を見上げた。
イケメンの全力笑顔。尊い。
直視回避も慣れたものである。
そしてイケメン攻撃を回避する九蔵の奇行に慣れっこなニューイは特に気にせず、説明を始める。
平和なクリスマスのパーティーだ。
パーティー違いだが。
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