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「遊戯室は日替わりランダムさ。一度会えても、もう一度会うのは難しいさ」 「でぇもクリスマスパーティーの今日、ニューイが珍しくぅ悪魔城にきたぁ」 「悪魔城にいるなら、キャラクターの俺っちたちも会いに行けるさ!」 「でぇも時計がないから、パーティーの時間がわからねぇよぉ。ニューイに時計失くしたってぇバレるのも嫌だぁ」 「それでカラダがごねて大きくなっちゃったさぁ。大きくなりすぎて遊戯室から出れないさぁ。だから俺っちは勝手にアリスを探すことにしたのさぁ〜」 「シッポのせいでぇ俺っちはアリスゥにお尻とぶつかられたぁぞぉ?」 「お尻とアリスの出会いに乾杯さ〜」 「乾杯ぃ〜? アリスゥは怖いぃぃ」  どこかマヌケた二匹のやり取りに、九蔵は苦笑いを返す。  丸くなってブルブルと震えるカラダと、九蔵の膝の上で跳ねるシッポ。 「なんだ、そんなことだったのか」 「「そんなことぉ?」」  一大事だと困っていた二匹に、ニューイはあっけらかんと脳天気な笑顔を見せた。 「九蔵、ちょっとだけ地に足をつけていてくれるかい?」 「おう。ずっと地に足つけとくよ」 「ほんの数分でよいのである」  九蔵を下ろしながらのほほんと言うニューイ。わざとじゃないだろうが、帰りも抱える気満々である。諦めよう。  手の空いたニューイは胸ポケットからなにやら試験管を一つ取り出し、白い紙に中身の液体を浸した。  美しい若草色に染まる紙。  それを丁寧に折りたたんで、両手のひらに乗せる。 「〝***、*****〟」  ニューイが(まじな)いをかけると、紙はひとりでにクシャクシャと立体の形を作り、緻密な造形に姿を変えていく。  そして変化が終わった頃。 「「ほわっ……!?」」 「うむ。うまくいったぞ」  嬉しげなニューイの手には──革ベルトが付いたアンティークな設えの真鍮の懐中時計が乗っていた。  カラダとシッポは耳をピンと立て、口を開けたまま信じられないように時計とニューイを交互に見つめている。  九蔵は慣れた。  悪魔のすることはいつも突拍子がない。 「で? 今度のはどういう仕組みなんですか、ニューイさんや」 「これかい? これは勿忘草の悪魔液、〝紙のみぞ汁〟である。紙に浸して(まじな)いをかけると、紙の上に乗るサイズの探し物なら呼び出せるのだ。デーモンアカデミー時代、試験中に消しゴムを忘れた時に最適だったのだよ!」 「そうですね。消しゴムは大事ですね」  ドヤ顔のニューイを前に、九蔵はそれでひと事業起こせそうだなぁ、と相変わらずポテンシャルの高い恋人に頷いてみせる。  王様になれる力を持っていてもニューイはニューイなので、使い道が平和的だ。  ニューイは手の上の時計を開いて動作を確認し、壊れていないか点検する。  時計に怪我はない。  なら、ハッピーエンド。 「さぁ、これはキミたちの時計だ」 「「っ……」」  陽だまりのような熱を持つ甘いスマイルで、ニューイはカラダの大きな手を取り、肉球の上に時計を乗せた。  なかなか受け取らないカラダに、指を柔らかく曲げて握らせるニューイ。  カラダはキョロリと九蔵を見る。  大丈夫だから受け取りなさい。  頷くと、次にシッポを見る。  シッポは九蔵の腕の中でもじもじとしていたが、九蔵が抱えた白モフを頷かせた。  そんな目で見ても仕方ないぞ。  ニューイは受け取るまで待つだろう。 「ニュ、ニューイ……これはお前の時計だぁ……」  観念したカラダは、キュッと手のひらの時計を握ったが、ウルリと真っ赤な瞳をうるませてニューイを見つめた。

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