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「オォゥン、オォゥン、ぶつけられたのもその後のお仕置きもめちゃくちゃ痛かったんだぜぇぇぇぇ」 「怖いさ〜死んじゃうさ〜俺っちが割れちゃうところだったさ〜!」  オーイオイオイ、と涙する五メートルはある巨体の白ウサギと、同じく涙して白ウサギにしがみつく白フワ。  この二匹はウサギ違いだったことはわかっていたが、関係性は不明だ。  それに、この世界には白ウサギは一匹だけだと言っていたはず。  当然のように九蔵を抱き抱えているニューイを見つめて首を傾げると、ニューイは複雑そうに眉を下げた。 「こっちの大きな白ウサギは、昔一度この遊戯室で出会った正しい白ウサギだよ。カラダと言うのだ」 「おうよぉ。俺っちはキャラクターの白ウサギ。名前はカラダァ。アリスぅを誘うのさぁ」  ぐすん、と鼻をすする真っ赤な瞳の白ウサギ──カラダが、九蔵をうるりと見つめる。 「こっちの白いフワフワは、正しい白ウサギのしっぽだね。名前はシッポだ」 「はいよぅ。俺っちは白ウサギのしっぽさ〜。白ウサギがあんまりウジウジして大きくなっちまったから、アリスに時計を探させようとアリス探しに出てたのさぁ〜」  ピョコ、と耳を伸ばした白フワ──シッポが、バインバインと跳ねて存在をアピールした。  九蔵は無言で額に手を当てる。  しっぽが自立して動くなんて、意味がわからない。そりゃあ誰に聞いてもカラダにたどり着くわけだ。 「九蔵、疲れたかい? オレンジジュースを取ってこようっ」 「や、それはいいです……ただなんかこう、しっぽに脅されたと思うと自分が情けねぇってか……」 「? 脅し?」 「あっ! アリス〜! 黒ウサギにそれ言っちゃだめさ~!」  九蔵のつぶやきに、慌てたシッポがバイーンッ! と跳ねて九蔵の膝に乗った。  そこそこ重い。落とすわけにはいかないので、渋面で受け止める。  そんなシッポに首を傾げるニューイが、「九蔵を脅したのかい?」と尋ねて悲しげに目を細めた。  悲しげなのはまた少し酷いことをしなければならないのか、ということである。  もう観念して白状しろ。  ニューイさんは怖いぞ。 「うっ……さ、探し物を頼んだだけさぁ。アリスが断ったさぁ」 「探し物? なら九蔵に頼まず、私に頼めばよかったじゃないか。たった一度の出会いでも気兼ねすることはないよ。私はシッポたちの助けになるとも」 「う、ううっ……!」  怒ってさえいなければ恐怖とは無縁の基本的に誰にでも優しくしたい悪魔なニューイは、ニヘラと微笑んだ。  するとシッポはバイン! と大きく跳ねる。それから九蔵をチラ見する。助けてやれないと言っているだろう。  九蔵が首を横に振ると、今度はカラダを見つめる。  カラダはフコ、と鼻をヒクつかせ、ヘニョリと耳を下げて丸くなった。打つ手なしということか。  逃げられないと観念したシッポは、ピョコ、と片耳を上げて、ニューイの笑顔を見つめた。 「さ、探し物は……時計さ……」 「おお、あの時計だね」 「うん。……ニューイから預かった、ニューイの宝物の、時計さ……」  シッポが小さな声で白状すると、丸くなっていたカラダも大いに丸みを帯びる。 (あぁ、そういうことな)  これでようやく、話が見えた。  カラダとシッポは同一キャラクターで、昔ニューイと一度会っていたのだ。  けれど失くしてしまったカラダたちの大切な時計は、九蔵が守ろうと躍起になっていたニューイの宝物。  だから見知ったニューイには頼めず、アリス服を着ていた九蔵に目をつけて、秘密裏に見つけさせようとしたのである。  しかしガードが固くてうまくいかず、脅迫に切り替えた。  宝物を返す交換条件に見つけてこいと言えば、どっちにしろ見つかる。  これらはシッポの独断作戦だった。  なかなか悪賢い。  結局のところ、九蔵が必死にならなくたってニューイの宝物が壊されることなんてなかったわけだ。

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