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「俺が追いかけられんの嫌で書き置きしたんだし、どう降りようか迷ってたとこ救出されたし、怪我ねーし」
「ふむ。では九蔵。私は今なにをしているのかな?」
「? 俺を抱いてるかな」
「そうとも。九蔵を抱いていると、いろいろなことがわかるよ」
ニューイは九蔵をキュ、と抱きしめてから、そーっとそーっと慎重に地面へ降ろす。ついでにもう一回抱きしめられる。
ニッコリと笑うニューイ。
「顔が赤い。逆上せているね。鼻血が出てしまったのはそのせいだな。まるで逆さにされたか、シェイクされたかのようだ。九蔵がそうされる正しい理由があると思うかい? ないならそれは攻撃だとも」
「…………」
「そして腕。防具の下にアザがある。九蔵がそうされる正しい理由はあるのかな?」
「…………」
「アバラが痛むのだろう? 肩も痛めているじゃないか。強く握られたのだね。九蔵は背丈や肩幅こそ大きく見えるが、主に骨と皮でできている薄めの人間だ。強く握るとどうなる? そう。身が出てしまう。九蔵の身が出そうな力で握らなければならなかった正しい理由は?」
「…………」
「ね、九蔵」
「はい。目と耳を塞ぎます」
なんの反論もできない九蔵は、ニューイの笑顔に促されるがままサッと目を瞑り両手で耳を塞ぐ。
それから暗闇の中で、バカを見た白ウサギを少し哀れんだ。
「さて、ウサギたち……遅れたヒーローの責任の取り方を知っているかい?」
──ほら見ろ。
だから、言ったじゃないか。
「二度と事件が起こらないように、悪い子には、ほんの少し 酷いことをするのだよ」
森羅万象──滅多に怒らない人が本気でキレた時というものは、誰も迂闊に逆らえやしないのである。
◇ ◇ ◇
話を遡ること、九蔵がいなくなって一時間が経った頃。
マテを頑張っていたニューイは我慢ならなくなり、九蔵の魂の気配を追いかけて遊戯室にたどり着いた。
本人曰く、〝私は黒ウサギ。気がついたら遊戯室に迷い込んでいたの〟らしい。
仮装したのをいいことに、もし九蔵を見つけてもツノ骸骨のニューイではないと言い張る魂胆だったそうだ。
しかし、遊戯室はゲームの世界。
魂の気配を追いかけられない。
さてどうしたものかと思ったニューイだが、突然ニョロりとトカゲが現れた。悪魔の世界では一般的なトカゲだ。
ビルティと名乗ったトカゲは、ロープで縛った白いフワフワをニューイに手渡す。
『黒ウサギ、それ持ってアリス探す』
『アリス? 九蔵のことかい?』
『そう。オレ、アリス白ウサギに案内する役目。唆すした。だけどアリス、黒ウサギ大好き。黒ウサギ大好きだから、オレ疑うない』
『ふむ……キミは九蔵を唆して白ウサギのところへ誘導したけれど、九蔵はキミを疑わなかったのだね。理由はわからないが、あの用心深い九蔵が、私を大好きだからキミを疑わないと決めたのか……』
『そう。そう。それでオレ、役目全うする。アリス止めるも、アリス居場所も言えない。でも、コレ捕まえるして、黒ウサギに知らせるはした。アリス、いい男。オレ、カッコイイ生き物、好き』
『うむ。九蔵はいい男だ』
機嫌よく頷くビルティの話を聞いて、ニューイはビルティを無罪にすることにした。
役目のある中で手助けを決めたビルティのおかげで、九蔵のピンチを知れたのだ。
それに疑わないと決めた九蔵なら、騙されたとしてもビルティを責めないだろう。
ニューイはビルティから白フワを受け取り、バサバサと飛んだ。
途中キャラクターたちの噂話から九蔵の足取りを掴み、毒の沼へ到着。
そして九蔵が置いていったヤギマスクを拾って洞窟内の道を進み、白ウサギの寝床へたどり着いたところ──ドン。
「九蔵が握られている姿を見つけて、思わず投げてしまったのだ」
「「うぉぉぉぉんっ!」」
「うん。それはわかったけど、俺さんはこちらの問題が気になっています」
ニューイからことの次第を聞いた九蔵は、揃ってべそをかく二匹の白ウサギを指さした。
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