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ただひたすら淡々と目を見つめて口汚く言い分を並べ立てられた白ウサギは、「ヒェッ……!」と悲鳴をあげて縮こまった。
九蔵にとってはその反応すら腹立たしいものだ。なにもかもにイライラする。
「わかったらシケた顔してねぇでさっさとイカ臭い手を離せください、この陰険チェリー。さっきから鳥肌収まんねぇんだよ」
「ウォ、ウォォ」
「やかましい」
「ウォゥ……」
チッ、と舌打ちすると、怯えたように耳を下げる白ウサギ。
臆病で弱いものいじめが好きな白ウサギは、キレた九蔵が弱そうに見えなくなり、手のひら返して強者に媚びているのだ。
なんだ。ビルティの言うことはやはり当たるじゃないか。
実際の九蔵は、平均よりかなり長めの堪忍袋の緒がキレてしまっただけで、強くなったわけではない。
だが森羅万象、滅多に怒らない人が本気でキレた時というものは、誰も迂闊に逆らえやしないのである。
「出せ。早く」
「ウォ、な、なにを」
「ニューイの宝物」
「ニュ、ニューイ? なんでアリスゥがニューイと俺っちのこと」
「全部後で答えてやるからさっさとモノを出せっつってんのがわかんないのかね」
「ヒェッ……!」
「その長い耳が飾りならもぎってもいいよな?」
「だっ出すぅぅぅ出すよぉぉぉ」
目が据わった九蔵に光のない冷ややかすぎる視線で突き刺された白ウサギは、真っ赤な瞳をうるませ慌てて動き出した。
だが──その時。
「「ふぎゃんッ!」」
九蔵を握っていた白ウサギの腕に、物凄い速さで白い塊が飛び込んできたのだ。
豪速球に撃ち抜かれた白ウサギと豪速球が、ユニゾンして悲鳴をあげる。
それによって九蔵を握っていた手が緩み、九蔵はスルリと抜けて地面に向かって落下していく。
あぁもう、暴れそうだ。
こちとら無傷で帰還しなければならないというのに圧死しかけて鼻血を出し、その上あと一歩というところで豪速球に邪魔をされて落下死寸前。
これで死んだら、呪ってやる。
ブチ切れている九蔵は、ピキ、と額に青筋を浮かばせ、苛立ちのピークに達したが──
「九蔵の抱き方がなっていないな」
「ぉっ……!?」
──そんな九蔵をふんわりと抱きとめる温かい腕と、柔らかい声。
今年一番のイライラのピークを迎えていた九蔵は、腕の持ち主の声を聞き、一瞬で苛立ちを霧散させた。
黒く長い耳に金色の髪。
タレ目がちな深いルビーの瞳と、長身に似合うチョコレート色の燕尾服。
ストン、と岩場に降り立ち、腕の持ち主は九蔵の顔を覗き込む。
それからポケットから取り出したハンカチで優しく鼻血を拭い、チュ、とキスをして上書きをする。他に傷がないかと点検もする。
「九蔵、白ウサギより黒ウサギのほうが紳士的だと思わないかい? 追いかけるなら、オススメは黒ウサギなのだよ」
無傷を確認してから甘えた声でしょーんと眉を下げる彼は、九蔵の原動力こと──ニューイであった。
言いたいことは多々あるが、パーティー会場で待っているはずのニューイがなぜここにいるのだろうか。
九蔵は開いた口が塞がらない。
ニューイは腕を痛めて丸くなる白ウサギのことなんて目もくれず、九蔵を見つめてしょもしょもとしている。
「ニューイ、なんでここに? 俺ちゃんと書き置きしていったよな?」
「うむ。だから一時間以上待ったとも」
一時間しかの間違いだ。
そう言うと、ニューイは「これ以上はとてもじゃないが待てない。九蔵のすぐと私のすぐは違うのだぞ」と真剣に言った。
なるほど。我慢できなかったのか。
九蔵はかなり急いでここまでたどり着いたのだが、これは仕方ない。
「あぁ〜……ごめん。面倒かけたよな」
さり気なくことを終わらせたかったが結局ニューイに手間をかけさせてしまい、九蔵はニューイに抱かれたままガックリと項垂れた。
しかも、助けてもらった。
恥ずかしい有り様だ。
九蔵が勝手な行動を謝ると、ニューイは九蔵はちっとも悪くないと言う。
「むしろ、追いかけるのが遅い私のせいで手遅れだ。私が悪いのである」
「へ……? いや、どっこも手遅れじゃねぇと思うけど……」
なぜ謝るのだろう。
九蔵は首を傾げる。ニューイは本気で今回、どこも謝るところがない。
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