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九蔵に従い上品に一礼をするニューイを連れ、賢明な九蔵は何事もなかったかのようにクルリと踵を返し、現場へ背を向ける。
絶対に振り向いてはいけない。
「シ、シオ店……っ」
「聞いてんのか、笑い猫」
「っヤバい。ヤバいスココさん。ニューイ。シオ店長が公爵夫人とか聞いてねースよ。助けてほしいス」
「あ? シオ店長が誰かは知らんが、私はお前の飼い主だ。お前を躾ける義務があるんだよ」
「あれ? ココさんっ? ニューイっ?」
「その口に入るもんなんでも欲しがる性根を叩きなおしてやる」
例え未だかつてないほど情けない澄央の絶叫が聞こえても、振り向いてはならないのだ。生きるために。
「ンニャ────ッ!」
(ナス、成仏しろよ……そのうちクリスマスプレゼントが届くからな……)
九蔵は心の中で、そっと澄央に十字を切った。アーメン。そしてメリークリスマス。
「そういえばニューイさん」
「ん?」
「黒ウサギなんてキャラ、本編にいないよな? 助っ人のナスたちでも俺の記憶から出てきたモブでもないニューイが、なんで俺に手を貸せてるんだ?」
「うむ。それは私が主人公である九蔵と仮契約をしているからだね」
「ほう。続けて?」
「仮契約悪魔は九蔵の持ち物である。つまり九蔵のステータスの一部なのだよ。ズーズィはわかっていて遊んでいるが……私は九蔵のために力を尽くすぞ! ズーズィほど大きく綺麗ではないものの、私一人なら空間に亀裂くらい入れられるのだ!」
「なるほど……ってことは今すぐゲームから出られるんじゃないんですかね」
「あ」
◇ ◇ ◇
そんなわけで、安定のドジっ子悪魔ニューイさんによりさっくり脱出を試みた結果。
「っと、出られたのだ」
「出られましたね」
「出られたス」
「出させられたんだけどォ〜?」
さっくり成功。
入ってきた時と同じ廊下に出て、九蔵はほっと一息を吐いた。強制的に遊戯室の外に出された澄央とズーズィも、いつの間にやら隣にいる。
白モフを追いかけてからたった二時間。
濃すぎる冒険だ。
けれど、パーティー会場から賑やかな音とクラシックミュージックが聞こえた。
九蔵が終わってしまうのかと心配していたクリスマスパーティーはまだまだ続いているらしい。嬉しいものだ。
澄央はよほど怖い思いをしたらしく、素早く九蔵にしがみついた。
「イチゴのタルトが食べたかったス」
「あー……うん。でも俺、お菓子は作れないかな。また買いにいこうぜ」
「ココさん、俺を置いて逃げたスね」
「…………」
「手作りイチゴのタルト」
「……機会があればな」
「ココさんのそれは絶対作ってくれるってことス。よっしゃー」
真顔で喜ぶ澄央。
モフモフの着ぐるみと肉球がなかなか気持ちいい。澄央相手ならニューイは気にしないので、好きにされる。
「あ〜もっと遊びたかったのにぃ〜」
「いだ、いだだっ!」
「ハイヨーニュっちぃ! 風のように駆けちゃってェ〜?」
「ズーズィ! 黒ウサギの耳は神経が通っているのだよっ? 引っ張るなんてとんでもないっ」
「引っ張らないわけないじゃんウケる」
つまらないと萎えていたズーズィだが、ニューイの耳を引っ張って仰け反らせて遊び、機嫌を直していた。
こう見ると、ズーズィはニューイがかなり大好きだ。彼なりに大事にもしている。
澄央とて九蔵を好いてくれている。
ワガママを言って甘えるのが澄央の親愛表現なのだ。
同じように自分を好いてくれている無二の友人と戯れている、九蔵とニューイ。
「もぎ取れもぎ取れウサ耳ちゃぁんっ」
「ズーズィ〜……! 耳のないウサギはウサギじゃないのである〜……!」
「うひひひひっ」
なのに全く光景が違う。
ニューイはズーズィが嫌にならないのだろうか? 仲がいいのはわかっているが、素朴な疑問だ。
「あーウケる! あ。ニュっち」
「ぉあっ」
九蔵がそう思っていると、ニューイの耳から手を離したズーズィが、ニューイの背中へ乱暴になにかを投げた。
ニューイはすんでのところで振り向き、ギリギリでキャッチする。
それは中心が赤い黒の水晶玉に金色のメロンの網目が絡みついたような球体で、先端にランプ部分がついていた。
「フレグランスランプかい?」
「そ」
そんな物を知らない九蔵のイメージは、ゴージャスなアルコールランプだ。
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