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──その後。
ズーズィに貰った薬により「またバイキング出来るス」とパーティー会場に繰り出した澄央と別れ、九蔵とニューイはフリーな客室で休むことにした。
二階分はあるだろう。
天井の高い上品な部屋だ。
ベッド、テーブル、チェストや絵画に花瓶など、一式が揃っている。そしてそれらは壁や床を無音で這っていた。
ニューイがマテと言わなければ、ソファーもベッドもまだ彷徨いていただろう。
絵画やランプは未だに壁や天井をスス、スス、と摩擦抵抗無視の無音で這っている。
天井に躙り寄るドアサイドのランプは、シャンデリアに恋をしているらしい。お腹いっぱいファンタジーだ。
(お、雪。……ですよね?)
窓の外でチラつく白や金、銀に気がつき九蔵は首の角度をややつけたものの、口には出さずにおく。気にするだけ無駄だろう。どうせこのほうがキレイだからだとか言われるだけである。
窓辺に寄ると、空飛ぶ悪魔城からは悪魔の世界がなだらかに見えた。
今夜はクリスマスパーティー。
空を飛ぶ悪魔がいない外は美しい。パーティーの喧騒と優雅な音楽が、この部屋まで届いている。
今夜は華々しく騒がしいパーティーに参加してみて、確かに楽しかった。けれどやはり、自分はこうして画面の向こう側のように楽しむほうが性に合っているようだ。
「九蔵、手を」
「っは?」
そうして呑気に窓の外を眺めていると、不意にニューイに手を取られた。
九蔵は驚き目を丸める。なにがなんだかわからないうちにグッと引き寄せられ、楽しげなルビーの瞳が目の前に降りた。
チュ、と唇が触れる。
ピクリと震えた腰を抱かれ、握られた手には指が絡む。……手慣れおって。
「手を、じゃねーでしょ。唇は」
「うっ。そこはその、溢れたのだ」
九蔵が照れくさい香りを誤魔化すためにジットリと睨むと、ニューイはしょもんとしょげて肩を竦めた。
小声で「九蔵の玉子焼きが一番好きである」とも言われる。
いつかの約束か。
爆発しそうなくらい好きが溢れたら玉子焼きに例える。律儀な悪魔だ。
「ホントはあれ、独占欲なんだけどな……」
「ん? 独占欲?」
「なんでもねーよ。ま、玉子焼き換算はもういいってことです」
「おおっ」
小首を傾げるニューイを受け流す。
──〝九蔵が好き〟は、イチルの魂からの愛である可能性がある。
けれど玉子焼きなら、イチルはニューイに振舞ったことがない。特別だ。
〝九蔵の玉子焼きが一番好き〟なら、間違いなく自分が好かれているだろう。
そういう独占欲に気がつかないまま約束を守っていたニューイに、ぷっと吹き出した。だから今更、言い方なんてどうでもいいわけだ。
「どうして笑うんだい?」
「あはっ。なんでもない、です」
「でもかわいいのだよ。うむ、私のほうがなんでもない気分ではなくなってきた……」
「ゴフッ」
九蔵がかわいいことは一大事だ、と真剣に悩み始めるニューイの言葉で、九蔵は簡単に笑い事ではなくなる。
話しながら、ニューイはパーティー会場から聞こえるミュージックに合わせてステップを踏んでいた。
トンタンタントンタンタン。
ニューイは九蔵の体をまったりと引いて、スムーズに踊らせる。
九蔵は初め自分が踊っていることに気がつかなかった。それほど自然だ。初めてクルリと回転させられた時に気づき、九蔵は目をパチクリとさせた。
「ニューイさんや。俺さんはどうして踊らせられているのでしょうか」
「ん? ダンスタイムの音楽が聞こえるからだね。音楽が聞こえたら踊らなければ。そうだろう? パーティーは踊るものである」
「踊るものですか……」
そんな当たり前のことみたいに言われても、文化が違う。
とは思ったが、至極当然に言いきられると反論する気もなくなる。
これは我慢ではない。一人だと絶対にしないが、ニューイと一緒ならやってみるのもやぶさかではないと思った。
だからむしろ、心地いい。
穏やかにステップを踏んで揺れるニューイに手を引かれながら、九蔵は力を抜いて身を任せる。
「足、踏まれても知らねーぞ」
「九蔵のために地に足をつけているのだから、踏まれるのは本望である!」
「ンッ、……普通地に足をつかねーの?」
「うむ。普段は宙を舞うし上下左右バラバラだね。ぶつかったとしても避けられない悪魔がバカなのだ。そうだな……例えばこんなふう」
「っちょ、待っ……!」
ニューイがこんなふうと言った瞬間、背中からバサッ! と翼が飛び出し、九蔵の手を引いたまま優雅に羽ばたいた。
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