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「俺のバカ……っ」 「九蔵はバカじゃないのだよ」 「せめてプレゼントを郵送じゃなくて手渡しにすりゃぁよかった……っ」 「パーティー行きが決まった夜からコソコソと通販サイトを見ていた九蔵はかわいかったとも」  九蔵は枕を抱き込む勢いで丸くなる。  わざわざ悪魔の世界まで行ってクリスマスパーティーに参加したのにパーティーを楽しんだのは初めだけで、あとは一悶着と冒険だった記憶しかない。  九蔵は友人たちにはもちろん、恋人のニューイにすらイブらしいことをなにもしてあげられなかった。  恋人との初めてのクリスマス・イブは、意識のないうちに終わってしまったのだ。  もちろんセックス自体に不満はない。  魂に触れたニューイを責める気もない。  むしろクリスマス・イブを恋人と交わって過ごすなんて、実にロマンチックだと思う。正直ガッツポーズだ。  だって、両手がもげてもニューイはパーフェクトイケメンプリンスだった。  魂イキ? 慣れるとも。  お好きにしてくれ。慣れたって手遅れボディがより卑猥になるだけだろう。  公開自慰から始まり魂イキ、中イキ、コスプレ、窓ガラスプレイなどなど修羅場を通ってきた九蔵は、普通に抱かれるオーソドックスな性夜でないくらい構わない。  しかしこう……物語のようにまとまりがないというか、グズグズというか。 「九蔵、九蔵」 「最悪だ……! 失態晒すくらいならやっぱり今年もバイトしてたらよかったってのに、調子に乗った成れの果てだ……!」 「!? 私はアルバイトに行かない九蔵が大好きであるっ。だ、だからそろそろ私に構ってくれないかいっ? 私という現実を直視してだな……っ!」  自分でもよくわからなかった。  なにを自己嫌悪しているのだろう。悪いことはなにもしていないのに、ニューイや澄央やズーズィに申し訳ない気がする。  自分はじょうずにクリスマス・イブを過ごせていなかった、気がする。 「九蔵っ」 「っ。……はい。なんでしょう」  そうしてうつ伏せたまま丸くなりベッドのムシになる九蔵の肩に、ニューイの肩がピト、とくっつけられた。  ジワ、と頬が熱くなる。  素肌がくっつくと温かい。 「なんでもないのだ。……私を構ってくれなくなるムシな九蔵もかわいくて、くっついてしまっただけである」 「……ヒェ〜……」  叱るかい? と言いたげな語気で言われると、九蔵は自己嫌悪していた思考ごと桃色のなにかに上書きされた。  こうなるとムシにもなっていられない。  温かいニューイにくっつかれて、へこたれた九蔵ムシのハートに少し熱が戻る。 「……無視して、ごめん。……んで寒いから、くっついても叱らねぇ、です」 「! 九蔵〜っ」  モソ、と顔を上げると、ニューイは目を輝かせてスリスリと肩を擦りつけた。  あからさまに喜ぶな。照れる。  避けようと思わない自分ごと発火してしまいそうだ。 (はぁぁ……自己採点じゃムシ化の俺を、ニューイはかわいいって評価すんだもんなぁ……)  顔をあげないわけにもいられなかった九蔵は、ホットな悪魔である彼氏に体ごと密着されて、頬を赤くした。  気が抜けてしまった。  迷惑をかけたことを謝って、そろそろ手打ちにしよう。反省会はいつでもできる。 「あのさ、ニューイ」 「ん?」 「せっかくクリスマスパーティーに招待してくれたのにあんな感じで、ごめん」 「? あんな感じ、とは?」 「え? そりゃ、予定外の奇行ってか、俺のテンションがおイカレだった感じのことだろ」  そう思って懺悔したのだが。  さらに重ねた説明を聞いても、ニューイは言葉の通じない幼児のように理解不能そうな顔でキョトーンとした。  いや、謝って手打ちにしようとしているのだからスムーズに理解してくれ。  明らかに迷惑をかけたじゃないか。

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