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「ほら、最初に仮装嫌がったりして駄々こねただろ? 無駄な時間使ったなって思うし、ナスは順応してたのに、俺だけ騒いでさ。パーティーに来てもはじっコでお前といただけだし……お前は悪魔王様と話してたのに、勝手に動いて結局迎えにこさせたしな。ナスとズーズィもパーティー楽しんでたのに邪魔して、なんか俺はやっぱ一人で考えて一人で動いちまうからさ……あー……あと、クリスマス・イブらしいこと、俺はなんにもお前にできなかった、です」 「ちょっとよくわからないのである」 「わかってください」  丁寧に二回説明したのに返事がこれで、九蔵はガックリと項垂れた。  流石に酷いと思う。  気にしてないだとか許すだとかじゃなくわからないとは、如何に。 「はぁ……なんでよくわかんねぇの?」 「うーむ……九蔵が言うそれらは、九蔵が拾い集めてきた可能性の欠片だろう? 事実ではないよ」 「え、……っ」  深いため息を吐くと、九蔵にピタリとくっつくニューイが、そのままコテンと首を傾げて九蔵の肩に頭を預けた。  肩ズンとやらに近い体勢だ。  触れたところから熱が上がる。 「いやしかし、まさかあんなに愛し合ったあとになにもできなかったと謝られるとは思わなかったぞ。私はまだまだ、九蔵のことをよく知らなかったのだな」  ニューイがムフフと笑うと、フワフワのヒヨコ髪が頬にあたってくすぐったかった。  熱い頬に緩んだ頬が触れる。  チークキス。かわいがられたらしい。 「私たち三人が仮装を楽しむからと、なぜ九蔵が仮装を嫌がる権利がなくなるんだい? 私は危険への保険に勧めただけで、もし九蔵が尚断っても私も二人も九蔵をワガママだと捨てたりしないさ」 「そ、それは……」 「九蔵が文句を言う時間は無駄かな? キミは感情だけで自分勝手な文句や理由のない文句を言わないよ。なら九蔵の意見発表タイムだったのである。わかりあって出した結論は押しつけではなく納得だと私は思うよ。九蔵はどう思う?」 「うっ……」  ハチミツのように甘く九蔵を溶かすニューイに、九蔵は情けなく唸った。  ニューイがズルい。  答えを言うのではなく、どう思う? と尋ねられると、察しのいい九蔵はニューイの言わせたいことを言わざるを得なくなる。  本人は「ほら、九蔵が謝ることはなにもないじゃないか」と言いたいだけの無自覚だが……年上の悪魔は、いつも甘く笑うのだ。  控えめにコクンと頷くと、ニューイは九蔵にスリスリと頬擦りをした。 「人間の世界はね。見るたびに変わって私は驚くのだよ」 「う、ん……」 「仮装場も悪魔城も遊戯室も、九蔵はビックリしたのだね」 「ニューイ……その」 「悪魔の世界を見て、驚く九蔵はかわいいぞ」 「──……は」  それはつまり、迷惑じゃない。  九蔵は、魂ではなく心がキュゥンと嬉しがるくすぐったさを感じた。  かわいいと言いながら擦り寄せる頭が角度を変え、艶かしい舌がチュ、と耳の裏を舐める。吐息ごと、耳朶を舐る声。 「んっ……くすぐってぇです……」 「ふふ、わざとだよ。笑っておくれ」  ニューイはお茶目なつもりだが、九蔵は笑えず、最中でもないのに体温を上げた。  笑ってあげたい。  ……どんなふうに笑えばいいのやら。  ふとしたただの不安や後悔を、まさかこんなに丁寧に丁寧に|解《ほど》いてもらえるとは思わなかった。  だから反応に困る。  言葉じゃ足りない。  けれど九蔵はこの感情の表し方を知らず、ニューイに耳を舐められて眉を垂らす。 「うん? あとはなにが不安なんだい?」 「ふっ、不安なんかねぇよ。俺は俺がダメだったと思っただけで……っう」 「なに? それはたいへんだ! ダメな九蔵にキスをしなければっ。ダメな九蔵はどこだい? ここかな? ここかな? それともここかな?」 「ぅひっ、にゅ、ニューイっ」  ニューイはモゾモゾと九蔵の体を抱き寄せ、耳だけじゃなく髪や項、肩、首筋、目元など、あちこちにキスをした。

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