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──それから舌と声を取り戻した九蔵は、舌蔵の記憶も引き継ぐ不思議体験をしつつ元通りの体を得た。
ニューイとドゥレドは和解した。
舌と声を奪ったもののボディもハートも傷つけられてはいない。
そう九蔵に説得されたこともあり、元来平和主義のニューイはドゥレドを許すことにしたのだ。
コトダマこそドゥレドの手にあるがニューイの記憶にドゥレドの弱みがあることには変わりないので、ドゥレドも文句はなかった。
それに基本的に悪事を働かないニューイだ。仲良くしておけば勝手に話を撒かれることもないだろう、という打算があるとか。
あんなにバカらしいのにバカじゃないところが、ドゥレドの強悪魔たる所以である。
和解したあとは約束通り、ドゥレドに悪魔王が気に入っているゲームソフトの遊び方を教えた。
ドゥレドの秘密基地には人間の世界のゲームが各種揃っていたのだ。
曰く、悪魔王様の趣味はオレの趣味。
やはり同族の匂いがする。
本当はブツが返ってきたのでもうドゥレドの言うことに従わなくてもいいのだが……推し活の役に立っている限り危険はなさそうなので、九蔵はあえてドゥレドと仲良くすることにした。
敵に回して不意打ちされたくない。見えない敵より見える隣人のほうがいい。
「クゾウ、お前だってオレに言えたものか? 愚かなくせにバカじゃない。強かな臆病者が一番厄介だ。この悪魔め」
「嫌味やめれ。まだ十五連敗だろ?」
「あっ! あぁっ! ああぁぁぁっ! そんなところにどうして穴が空いているのだっ!? マルオは二段階ジャンプしかできないのだよ!」
「うちの悪魔様は三十八連敗中だぜ」
「ニューイ代われッ! お前がやると残機が秒数並みに減るッ!」
「こんなに死んでしまうなんて、もしやこのピコピコ壊れているのでは……?」
「代われッ! アタシの本気を見せてやるワッ!」
「楽しそうでなによりです」
◇ ◇ ◇
結局夜までがっつり九蔵とニューイを引き留めて散々ゲーム訓練をしたドゥレドは「明日も連れ込むぞ」と宣言し、やっと悪魔の世界へ帰って行った。
もちろん消えがけに九蔵のスマホを奪い、連絡先を強制チャージすることも忘れない。
キューヌとドゥレド。
この幼馴染みコンビは〝人の連絡先は隙あらば無許可で奪うもの〟という野盗交流システムでも搭載されているのだろうか。
九蔵はそう考えて呆れる。
あんなに悋気ムンムンで嫌っていたはずが、当然のようにニューイのらくらくフォンもやられた。
ニューイも九蔵も話すより聞く質だ。
九蔵は話すのが苦手なので聞くほうが楽であり、ニューイは心底人の話をニコニコと楽しめるので、ひたすらドゥレドのトークターンでも一切不快に思わない。
なので普段キューヌに振り回されているドゥレドは、文句を言い尽くして恋バナも聞かせまくった後は満足感に包まれたのである。
完全に話し相手としてロックオンされた。別に構わないけれど、毎日来るのだろうか。とすると流石に迷惑だ。
そのうち、なんとかしよう。
可能性に過ぎない未来の予感を、そのうちと置いておく。
先延ばしは不安でしかない。
でも、一人の時よりは不安が少ないような気がした。
もしも今後も来るなら、できれば週一くらいにしてほしい。
そういうことも、たぶん、もしかして、頑張れば、振り絞れば、自然にドゥレドに言える気もする。
できるかも? という一抹の希望を持てるようになったのは、ニューイのおかげだ。
他者と摩擦して失敗したとしてもニューイに相談できるから、九蔵は一人きりの頃より足の裏半分くらいは軽率に踏み出せる。
これは九蔵の問題だけれど、きっとニューイは自分の問題のように考えてくれると思うのだ。
どうすればいい? と尋ねて。
一緒に頭を捻ってくれる相談相手がいるだけで、足跡半分強くなれる。気がする。
いや、まぁ。時間は欲しい。
……な、なれなかったら、凄く待たせるけども。ムシになる準備はバッチリだ。
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