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 愛が足りないという話だったはず。  それがどうしてそうなるのやら。  しかし理解できていない九蔵の頬をムニムニムニョーンと引っ張るニューイは、シリアスムードとは無縁の朗らかなスマイルだ。  とりあえずムニョムニョするのをやめてほしい九蔵だが、ニューイはお構いなし。 「いいかい? 九蔵の弱音。嬉しいったら嬉しいのだ。大歓迎なのだ」 「んにゅ、むに」 「私が思うに、現実はもちろんインターネットですら誰とも深く交流せず生きてきたキミは、人間の柔らかい弱さを集めて煮詰めたような部分がある。それが九蔵に悪さをしているわけだ。そんなものはシッシッ。早く追い出してしまおう」 「にゅ、にゅぅぃ」 「そして、キミがさっきからしていることはただの告白だ。お悩み相談の顔をしていかに私を愛しているかのアピールだ。嬉しいでしかないに決まっている!」 「ぅにゅ、にゃぇえ」  ムニョムニョムニョーン。  ムニョムニョン。ムニョニョニョニョ。  ニューイの感情に合わせて激しめに頬を揉まれる九蔵は、なにがなにやらでクルクルと頭の中を混乱させた。  シリアステンションで自己嫌悪を語っていた九蔵と違い、ご機嫌だったニューイは全く違う角度で九蔵の語りを聞いていたらしい。 「九蔵は相手を好きになればなるほど臆病になる。なら保険をやめられないキミは、私のことが好きすぎる! と自己紹介しているに過ぎないのである。些細な小石すら神経質に気にかけるほど、キミは私を愛しているのだ。これを幸せと言わずになんと言う?」 「む、むにゅ」 「それにそもそも前提がおかしい! 私は九蔵がビタ一文私にくれなくても幸せだ。家事も仕事も愛情表現も全部私一人が請け負ったって苦じゃない。だけどそんな私を気にかけてお返ししようと捧げてくれるキミの精いっぱいが、とても愛おしい……!」 「むにゅう……っ」  九蔵はされるがままである。  九蔵を可愛がりながら自分のターンとばかりに熱弁を始めたニューイだが、ふと九蔵の頬をモチッと離した。 「ぷぁっ、にゅ、ニューイ」 「九蔵はなぜあのケーキを作ったんだい?」 「はっ? えっと、それは普通のチョコよりホワイトのが、ニューイ好きそうだからだけど……あと、ホールケーキだと一緒に食えるから、お前は喜びそうだなって……」 「う、うむ。そこまで考えてくれていたのだね。……ほら、キミは私を第一に愛してくれている」  ──そう言って、始終嬉しげに笑っていたニューイは、自分の想いを語り始める。  確かに、ニューイは九蔵のバースデーを忘れずに覚えてずいぶん前からプレゼントを用意し、誕生日前の今日でも問題なく差し出せる準備ができていただろう。  それに手作りという真心の籠った、キチンと九蔵が喜ぶ実用的でスペシャルなプレゼントである。  九蔵はわかっているから〝普通のケーキ〟と自分を情けなく思った。  ニューイはそれが理解できない。  だって、九蔵はイベントに興味がないのだ。バレンタインなんて、わざわざお祝いする人間じゃないのだ。  そんな九蔵が一生懸命手作りした。  仮に間に合わせだとして、それがなんだと言うのか。意味がわからない。買ってきたほうが簡単じゃないか。  時間もかかるしお金もかかるし自信もないからきっともう二度と作らない。そんな冷たい人間だ? 違うだろう?  二度と作りたくないくらい苦労したものを、九蔵は、ニューイのためだけに作ってくれた。  愛情というものは、そこにあるのだ。 「キミは、恋は勝ち負けじゃないけれど自分は負けている、と言っただろう? だが、惚れた方が負けという言葉がある。なら──私も九蔵も、敗北者じゃないか」

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