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──中学生の澄央の話。
思春期の友人たちに恋の話題を振られたある時、澄央は家族に明かしたように、自分の性癖を話してしまったのだ。
好きな女子は? いない。
なぜ? 男が好きだから。
そんなふうに軽率に話した澄央を前に、友人たちは信じられないと声を上げ、各々が各々騒ぎ始めた。
誰かははしゃいでいたと思う。
好奇心が旺盛な友人だ。
誰かは嫌そうにしていた。
自分がその対象にされるのでは、と、もしかしてを想像してそのありもしない想像を嫌悪したのだろう。
興味を失った誰かもいた。
ふーん、と軽く流した友人は、騒ぐ友人も嫌悪する友人もカミングアウトした澄央も、関係ないらしい。
そう思うと、澄央が男が好きだという話題自体に興味がなかったような気がする。
それ以外話を続けてはくれず、澄央たちの話に混じってもくれなくなった。
他もまちまち。
──いつからそう? なんで男? 俺らのこともそんなふうに見てんの?
──男同士とか有り得ねぇ。キモイじゃん。ちょっと理解できねーわ。
反応もまちまち。
もちろん誰も彼も、別に友人である澄央を嫌悪したわけではない。
しかし澄央は、大きな違和感を感じた。
澄央にとって、これは特別なカミングアウトではなかったからだ。
男が好きだ。
男が好きな真木茄 澄央だ。
気分としては、巨乳が好きだとかロリっ子が好きだとか熟女が好きだとか、そういう誰もが持っている性癖の一部に過ぎない。
もっと言うと、更に好みがある。
男は誰でも好きなわけないだろう。
好きなタイプは? と聞かれて「女!」と答える男は稀じゃなかろうか。自分は前提条件をまず明かしただけなのに。
だから、そう。
男が好きだと言ったあと。
そこで話が終わってしまったことも、友人たちの恋バナにもう混ぜてもらえなくなったことも……澄央はなかなか、寂しかったのだ。
そんなことがあって、澄央は自分の性癖を友人に明かすことをやめた。
恋愛を省いても、コミュ力は高い。
四人兄弟の末っ子な澄央は要領がよく立ち回りに冴え、甘え上手だ。
人見知りも一切しない。友人には困らない。顔が怖い上に高身長過ぎるため女性に避けられることも、ちょうどいいオプション。
日々楽しいことは変わらなかった。
──ただ、恋は下手くそなまま。
異性愛者の男を恋愛から一切省いている澄央は、同じ趣味の男たちといくらか関係を持ち、恋もした。
しかしあけすけな澄央の態度を嗜めるような男が多く、やっぱり納得がいかなくて別れてばかり。
(なんで気にするんスか?)
(公共の場でヤるわけでもねぇのに、マナー守って男と手ぇ繋いでんのって、悪いことなんスかね?)
(俺は俺だし、アンタらもアンタらで、ただの人間ス。堂々とするッスよ)
(だって、アンタらがそうだと、俺もおかしいような気がして)
──好きだって思うことが……怖くなるじゃないスか……。
世間の風当たりがそよ風になったって、当事者たちは気にしてやまない。
誰よりも偏見を持っているのは本人だ。
みんな自分に、自信がなさすぎるのだ。
それはいっときの、澄央とて。
自分の意思で友人に性癖を明かすことをやめた澄央は、そよ風に心をなでられ、俯いてしまった一人なのだ。
そんな澄央だが、出会いがあった。
高時給に惹かれて面接を受け鬼店長に気に入られ逃げられなくなった、とあるバイト先でのことである。
それが個々残 九蔵。
きっかけは単純だった。
初めは好みではないので普通に接していたが、なんとなく同じ性癖の匂いを嗅ぎ取って、二人きりの夜勤で性癖を明かしてみたのだ。
『え。あー、そっか』
『……そっスよ』
聞いた瞬間の九蔵は、目ざとい澄央でなければ気づかない程度だが動揺した。
この時点でやや後悔する。
しかも話してみると、ゲイじゃないと言う。バイだと言われて、澄央は更に後悔した。詳細は省くが、どちらもオーケーはもうそういう第三の性癖である。
とはいえ、言ったことは取り消せない。
興味があるなら、いつからそうなのだとか、性癖のことを聞いてくるだろう。
なければ話が終わるはず。
『ま、そういうことあるよな。ナスくん的には好みのタイプとかあんの?』
『っ?』
そう思った澄央だが、続く九蔵の言葉は、予想していなかった答えだった。
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