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「──ということで、全力で甘えられるズッ友をゲットした男はエターナル幸せになりましたとさ。めでたしめでたし」 「うっうっ……ハッピーエンドだね……っ!」  全てを語り終えた澄央を前に、ご清聴していたニューイは目元にハンカチを当てて涙ぐみながら祝福した。  ツッコミどころも多々あったが、おおむね感動作だ。ブラボーブラボー。  おかげで澄央が九蔵のベストフレンドの座を誰かに取られたくないと威嚇する理由が、よくわかった。  しかし確認したいこともある。  念のため。 「真木茄 澄央……このエピソードがおとぎ話だとすると、完全にキミが九蔵にゾッコンラブしてしまう展開に間違いないのだが……」 「俺もそう思ったんスけど、ココさんといると俺の懐きっぷりが完全に子どもとママンなんで、お互い今更恋愛脳になれねーんス」 「よくわからないが安心したのだ」  ニューイはハンカチをポケットにしまう。  自分と九蔵は客観的にみると子犬と飼い主なのだが絶賛恋愛中なので、人間は不器用だなあと変に納得もした。  ニューイならば間違いなく近親相姦だ。九蔵が母親ポジションになったとしても、恋愛感情が親愛に変わることはない。  焼いた肉は生肉には戻らないだろう? 熱いハートは冷めないのである。ドヤ顔。 「よーし。これで私たち個々残 九蔵大好き同盟の意思の固さが確認できたぞ。キミがいるなら百人力だ!」 「もちッス。俺とニューイが揃ったなら、なんとしてもココさんのバースデーはおもてなしハート炸裂ッスよ。日頃の感謝バーストストリーム!」 「お、も、て、な、し、かい?」 「お、も、て、な、し、ッス」  パァンッ! と二人はハイタッチをした。  そうと決まれば善は急げ。  九蔵の好きなところトーク大会を開催しつつ、作戦会議を開かねば。 「私は金の延べ棒を追加したい」 「いーや、それならココさんの口座に現ナマ直送したほうがマシッス」 「名案だね!」  ニューイと澄央は頭を集めてノートを覗き込み、思いつく案をとにかく書いて話し合う。 「家事も代わりたいのだ……」 「家事は俺もあんまできねッス……」 「家事ができる九蔵や世の人間たちは凄いね」 「スーパーマンッスね」 「九蔵はスーパーかわいい!」 「ココさんはスーパーフレンドッス」 「「うぇーい」」  案を出し合う合間にしっかり九蔵愛好団体としての活動をしながら、二人は日も暮れつつあるアパートの一室で作戦会議に精を出すのであった。  ──で、一方その頃。 (いやあの、別に……家事は、その……自分の生活の活動なんだから基本当たり前で……ニューイにあれやってこれやって言われて増えてるわけではなく、やらなきゃ気になるからやるだけで……そもそもニューイは自分も分担されたがってるし……ニューイが家事しないのはそれ自体知らないからだし……結果的に収入は増えてるし……同棲や結婚における家事は収入による生活費負担割合で反比例な気がしまして……つまり別に……別に……!) 「…………」 「ウシシシシッ」  個々残家玄関には、ごめん寝状態で床に丸くなりムシ化する家主の九蔵と、その九蔵に夕飯をたかりにやってきたズーズィがいた。 「ほらぁ、ナッスんはクーにゃんに救われたんだって~。めちゃくちゃ懐かれてるじゃん。大好きなんだって」 「…………」 「ニュっちはクーにゃんの優しいとこが好きなんだって~。めちゃくちゃよく見られてるじゃん。大好きなんだって」 「…………」 「聞いてる? 全力でご都合イケメンに擬態してたボクをフッた贅沢者のクーにゃん」 「…………」 「クーにゃんを大好きな理由があれなら、文句も言えないっしょ」  九蔵は微動だにしない。  そばにしゃがむズーズィがつついても、顔すら上げない。  しかし無反応の九蔵に構わず、ズーズィはニヤニヤとヤニ下がって九蔵の頭をつつき続ける。 「ねえ今どんな気持ち? ねえねえ今どんな気持ち?」 「……夕飯の買い出しに、行きましょうか……」 「アハッ! じゃあ出資してあげるからさっさと起きれし! ワヒャヒャヒャヒャ~っ!」  心底楽しそうな仮契約悪魔さん。  耳まで真っ赤になったままムシになる九蔵は、この日知らん顔をして豪勢な夕食(卵料理と炭水化物多め)を友人たちと恋人へ振る舞ったのであった。  第六.五話 了

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