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 それから数日後。 「なに? デブった?」 「悪魔の辞書にデリカシーって言葉はないんですかね」  九蔵の下腹を掴もうと手を伸ばすドゥレドを前に、九蔵は拭きたてのお盆で腹を必死にガードし肉チェックを回避した。  本日の夜勤は九蔵とドゥレドだ。  越後に続きドゥレドが夜勤スタッフに追加されたことで潤沢になった夜勤男子メンツにより、夜勤は二人体制がノーマルになった。  素晴らしきかな、二人体制。  暇な時間は交代制でたっぷり休憩を取れるし、休憩室に引っ込めば仮眠したって問題ない。ゲームも飲食も許される。  榊曰く、「今できる仕事は全て終わった。客の前じゃない。なら好きにダラダラしてろ」らしい。一生ついて行こう。  目の前の仕事を全て終わらせれば推しの育成に時間を使える九蔵は、二人体制がノーマルになってからより一層効率厨に磨きがかかっていた。  おかげで新人のドゥレドが相方になったわけだが、それはそれ、これはこれ。  せっかく作った時間をたいていドゥレドの恋バナで消滅させられようが、不満たっぷりの澄央の目が痛かろうが、いいのだ。  やっとできた後輩たちが悪魔な上に恋に恋をしてキラキラしている状況で発狂寸前の越後に泣きながらしがみつかれようが、いいったらいいのだ。  業務をこなし、来客にきちんと対応。  それさえしておけばお賃金が貰える。  ぼろい商売だった。 「しかしそうやって夜勤中にダラダラできるようになったから、お前の腹には駄肉がついたのだろう?」 「デリカシー!」  トーク中に素晴らしき夜勤の世界へ脱線した九蔵の考えを読み取ったドゥレドに下腹を掴まれかけ、九蔵は全力でガードする。  というかなぜ一直線に腹を狙うのか。  二の腕や腿とて多少柔らかくなったはず。  このあったかくなりつつある春に、ヒートテックを二枚重ね裏起毛メンズタイツを装備しその上から長袖の制服を着ている九蔵。  露出がほぼないので、肉付きを全力で誤魔化せているはずだ。  なので自分ではまだまだイケると思っていたが……まさかもう、見るからにタプタプしているのだろうか。 「いやあの、体重はそんなだぜ? 見た目の話。てか俺の体感? 太ったなって感じ。思うに筋肉ねぇからたるみがキてるってだけよな。ペラいことには変わりなし。うん。つまりただの柔らかガリ蔵っつー男として絶望的な状態だとかはツッコミなしでお願いします」  手遅れになる前にと思っていた九蔵は手遅れ疑惑に戦慄し、慌てて気持ち腹筋に力を入れてコソコソと鍛えてみる。  そんな九蔵を眺めていたドゥレドは、二月混じりな三月頭の気温を舐め腐った半そで制服姿で、ムキッ! とマッスルポーズを取った。  なんのつもりだ。  巷で噂の筋肉マウントか。 「なら話は早い! 筋肉を鍛えろ! 筋肉を鍛えるといいことしかないぞ! 筋肉があれば悩むことはない! 肌艶がよくなり健康になる! 目に映る世界が輝いて見えるからな! 不安なんて皆無! 毎日が楽しい!」 「ん、んー……俺はそこ、イケメンで全部まかり通るからそんなになぁ」 「筋肉のほうが素晴らしい! なんせ筋肉は裏切らない! 物理的に強く美しくなることで自分に自信が持てるじゃないか! 恋のライバルもワンパンでスッキリ! 自分を鍛え上げることで得られる達成感と万能感はなにものにも代えがたいぞ! さぁクゾウも今日から筋トレを始めれば誰もが振り向くパーフェクト・マッスルだ!」 「いやうちイケメン宗教なんでマッスル宗教はちょっと……」 「面倒な宗教勧誘に捕まったような顔をするなッ!」  ドゥレドはノーとお断りする九蔵にガバッ! と襲い掛かるクマのポーズで威嚇した。

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