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 あれから折を見てはどちらともなく話をほじくり返し、スキンシップ過多VSスキンシップ過小の戦争を繰り広げてはいたのだ。  しかし二人は相容れない。  九蔵はニューイが九蔵の素肌に触りたがり、行為に及びたがるほどの価値を、自分に感じていないらしい。  よって理解不能。  ニューイはニューイで、一時期より積極性を磨いていた九蔵が今になって頑なにスキンシップを避ける理由がわからない。  よって理解不能。  なんやかんやで話し合うあたりやはりおおむね大人なものの、結果はコレだ。  それだけじゃない。──なんと、あの九蔵の外出が、増えているのである。  驚かずにいられるか。  あの九蔵だぞ?  インドアを極めているので結局ほとんど二人でデートにも行かずおうちデート一択で本屋とスーパー、バイト先にくらいしか行かない九蔵が、自主的に!  気づいた時、ニューイは頭蓋骨がプッコーン! と外れてしまった。  もちろんすぐに本人を問いただしたが、答えは「別に」「いやちょっと」「行かなきゃならんので」「今だけだから気にしねーでください」などなど。  それがそこそこの頻度ある。  今夜も「帰り遅くなる。先メシ食っといて」のマインがあったので、ニューイはより家に帰る気にならなかった。  九蔵は「浮気とかじゃねえからな」と迫真の語気で言ってくれたが、そこは心配していない。ニューイは九蔵を疑わない。  だがなにも知らないうちに九蔵に変化が見つかりすぎて、ニューイはハラハラドキドキ、それからムラムラが止まらなかった。  いやもう本当に。  ムラムラが止まらない。  もう一度正直に言おう。  ムラムラが止まらない。  素敵な王子様はそんなことをしないので自重しているものの、本気で寝ている九蔵を手篭めにしそうなニューイである。    なんせ九蔵はおいしそう、おっと魅力的で、ピタリとくっついて眠っているだけでも気が気じゃなくなるのだ。  なので夜の特訓の頻度をあげているのだが、なんとなーく、九蔵の機嫌がよろしくない。気がする。  いやもちろん。もちろん! 喧嘩なんかはしていない。険悪でもない。大事なことなので何度でも言おう。  しかしお互いがお互いなんらかの秘密を抱えていることは、明白だろう。  そしてそれによって生まれた「スキンシップ不足」という問題をほじくるたび、お互いのゴキゲンがナナメになる。  ゴホンゴホン。  つい説明が長くなった。  とにかくそんなわけで──ニューイはうちへ帰る気になれず、職場で無駄に時間を潰す愚行に走っているのであった。 「いかん。今の私には不健全でエッチなオネダリ欲しかないぞ」  ゴンッ! と一際強く頭を打ち付け、そのまま壁に恋をするニューイ。  じめ、じめ、じめ。  菌類栽培がはかどる湿気具合だ。  悪魔姿であればため息一つでキノコ型の薄紫な雲(触れると不幸になる)がポフン、と生成されるであろう。  ああ、そうさ。  自分は九蔵に下心しかないさ。  あますところなくすみずみ見つめて抱き合って共有し、もういっそ一つの生き物になってしまいたいと跪き願いたい。  ──こちらニューイ。  ──九蔵、九蔵。応答せよ。  ──まずいレベルに達した。 「裸を見られたくないと言うキミに寄り添うと、キミをぴったりサイズの箱に詰めて首と尻だけを露出した状態で抱くという体勢になるのだが……っ!」 「そこのイケメン落ち着けヤベーぞ」  そうして壁にすがりつき末期症状を発症していると、不意にドン引きしつつおそるおそると声がかかった。

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