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目元をメソ、と涙ぐませて振り向くと、そこにいたのは一人の男だった。
年の頃は四十代だ。
ボサついた髪とニューイより少し小さい程度の長身に、骨太で逞しい体つき。
「なぁんでそうなってんのか知らんけど、気遣いのあまり逆にド変態プレイに走ってることに気づけ? 箱詰めプレイとかマジでヤバイ。それをスタジオのすみで口に出すところもヤバイ。イコールヤバイ」
──千賀 三藤 。
酒とタバコと巨乳のお姉さんをこよなく愛する残念なオジさんであり、プレイバックマウスの撮影現場監督である。
ちなみに三藤は、ニューイに下世話な知識を教え込む筆頭メンズでもある。
なにを隠そう、ホテルでのコスプレセックスをニューイに勧めた張本人だ。
この場に九蔵がいれば、脳内で助走をつけて殴りかかったことだろう。
しかしお茶目なオジさん・三藤が登場しようが、今のニューイには関係ない。
ダークサイドに堕ちそうなニューイは三藤を見つめ、手をワキワキと動かす。
「むぅ……カントク。私は変態プレイなんてしようとしていないぞ?」
「やめい。うちのトップ・オブ・ウェブ看板イケメンがワキワキすな」
「ただ恋人の願いを叶えつつ、このメンタル、ボディともに欲求不満な現状を打破したいだけなのだ」
「あとこっち見んな?」
「端的にセックスレス」
「泣くなッ!?」
ニッコリ笑顔でセックスレス宣言をすると同時にダバーッと涙を流すニューイに、三藤はギョッ! と目を剥いた。
情けない? 構わん。
瑣末な問題である。
懲りずに九蔵ボディへそーっと伸ばす手を未だにペシペシと叩き落とされる現状のほうが、万倍一大事なのだ。
べそべそ〜とべそをかくニューイに慌てた三藤は、頭にねじり鉢巻のように巻いていたタオルをニューイの顔に押しつけた。
「あーもー泣くなよっ!」
「うぶっ」
「若もんが泣いてもオジさんにはどうもしてやれねーってのっ」
ベシッ! と四十路のオジさんが一日頭に巻いていたタオルが直撃するニューイ。
キメキメ仕事着な王子系イケメンの顔面に残念タオルが直撃。
なかなかの案件だ。
ついでに言うと、三藤がしばしば生活、健康面が不精な怠惰な男だということは、現場スタッフみんなの知るところである。
もちろんニューイも知っている。
渡した本人も〝ちょっとコレどうなんだろ〟と、微妙な気分だ。
しかしニューイはニューイなので特に気にせず受け取り、目元をトントンと拭いてから、オジさんエキスの染みたタオルを三藤へ返す。
「うぅ……ありがとうなのだよ」
「お、おう」
ニューイがありがたく返還すると、三藤は気持ち引き気味に受け取った。
ニューイの態度には無理がない。
躊躇せず受け取り使ったくらい、本気で一切気にしていない。
「お前マジのイケメンだな……」
「? うん?」
三藤はニューイを尊敬した。
ニューイはキョトンと三藤を見上げる。なんの話だ? 九蔵の話か?
「えーと、ありがとう。褒められると嬉しいである。愛するあの子の恋人はイケメン王子様なのでね」
「そっか……なんかごめんな……このポテンシャルでセックスレスとか、マジに深刻なお悩みなんだよな……」
「うむ?」
ポン、と肩を叩いて慰められた。
よくわからないが、真剣に同情されている。さっきまでヤバい男扱いをしていたはずが、心境の変化だろうか。
首を傾げるニューイに構わず、三藤はニューイにキラリと笑顔を向け、爽やかにサムズアップした。
「よし、暇だから話聞いてやる。今夜は二人で飲みに行くか」
「うむっ……!?」
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