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たまにはヤキモチを妬いてほしい。
いやまぁ悲しい気持ちにさせたいわけじゃないが、もう少し独占欲を垣間見せてもらえるとアガる。個人的に。
そんなことを考えていると、九蔵はなにやら粘っこい感情が胸に浮き上がった。
「な、な、ズーズィ」
「にゃぁにぃ?」
桜庭モードのズーズィの顔はやっぱりイケメンだ。なんてことを考えつつ、ズーズィの肩に擦り寄る九蔵。
ズーズィがこちらを見た。
九蔵は親指と人差し指で輪っかを作り、口元に当てる。たぶんこんな感じだ。うろ覚えのポーズだが。
「どう? 俺、余裕ありそう?」
いわゆる、お誘いポーズ。
ベロ、と舌を出しつつ、九蔵はシラフなら至近距離直視はできないズーズィの顔を上目遣いに見つめて尋ねた。
なんというかこう、ニューイに大して余裕がないのはシャイなせいだと思った。
特に性関係が弱い。
最初の拗ねたやり取りの時も、やらしい勘違いをしたのが恥ずかしかったからだ。
そこを補正すれば強くなれる気がした九蔵は、とりあえずエロに強そうなポーズを大真面目にとってみた次第である。
ズーズィは一瞬目を丸くしたが、すぐにニマァ、と三日月を描いた。
「ウヒヒヒッ! クーにゃんバーカー? でもそーゆー小悪魔系エンコー学生、頭悪くて愚かで堕落させやすいからボクはス、キ!」
「学生ぇ? やぁ、もうセーラー服は着ねぇよぉ。次はシチュプレするって、言うから、もうしねぇです」
「えーいーじゃんニュっちもそういうの好きだよキザだし知らんけど。ねーねーお兄さん一発いくら〜?」
「ん〜……にせんえん」
「やっす!」
「わぁかんねぇよう自分の値段とかぁ」
ケラケラと笑われる。
九蔵も愉快な気分でわはわはと笑う。
そうなのだ。貧相・オブ・だらしないだった自分の体はお手頃価格で、なんなら売れ残りのセール品である。
ニューイ以外は欲情しない。
だからまぁ、なんで触らせてくれないんだと拗ねられるのも、悪かなかった。
けれどそれとこれとは別。嬉しいからこそ、身だしなみは整えさせてほしい。
「クヒッ、本音はぁ?」
「俺にナイショで夜遊びするニューイちゃんが俺にだけ文句言うのはよくねーです」
「やっぱ拗ねてんじゃん!」
ニューイを突っぱね続ける本心を指摘され、九蔵はべ、と舌を出した。
酒の味すらもうわからないくらいフワフワとしているが、ワインをグッと煽る。
真っ赤な頬がデレ~っと綻んだ。
そうだ。いいことを考えたぞ。
「もうニューイのアソコ、もごうかね」
「は? 最高じゃん絶対やれよガチバックアップするわ」
「あはっ。俺、ズーズィ好き」
ズーズィは真顔で九蔵の手にあるワインボトルへ、自分のワインボトルをコチーンと乾杯させた。
もちろん〝好き〟は友情だ。
以前の飲み会でも連呼した。ノリのいい友人を持って九蔵は幸せなのである。
甘えた気分でズーズィの肩に頬擦りをし、ウヒ、と無邪気に笑みを漏らす。
そんな九蔵に「ズーズィー?」と甘えられたズーズィは顎に手を当て、なにやら神妙な顔をした。
「聞ぃけぇよぉー」
「流石にヤベーね? わかってて飲ませてるんだけど見るからにお持ち帰り待ったなしじゃん。おもろすぎんかこれ」
「どうやったらニューイのもげる? あいつ、ひでくてさぁ……俺にオネダリすること、エロいことばっかし。俺と、えっちぃコトしてぇんですって」
「ピコーン! ズーズィ様イイコト思いついた! ニュっちに今のツーショット撮って送ろ〜っと」
「やぁだよなぁ〜? だって俺、負けちゃうだろぉ。オトコのプライドがあるからぁ……余裕ほしーし、オラオラ攻めてみたい感、あんの。うひひ」
「ねーねークーにゃんカメラ目線でさっきのビッチポーズしちゃってー? 二千円のやっすいやつで」
「んあ?」
「そそ! 最高に頭悪そう!」
「うふ。あ〜」
「いいね〜!」
ピカシャシャシャッ。
連続で切られるシャッター音に向けて、九蔵は酩酊した顔でポーズをキメる。
一頻り撮影したズーズィが、その画像をウキウキと幼なじみへ送信する。
「わはっ……意味ねんだけどよ」
友人が楽しそうにイタズラをする様子を眺める九蔵は、グビ、と自分の体にだらしないアルコールを追加しつつ、そっぽを向いた。
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