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 酒浸りの九蔵が振りむくと、ズーズィはちょうどスマホを耳にあてるところで、どうやら誰かから着信が入ったようだ。  九蔵はソファーでうつ伏せになり、その様を観察する。 「はぁ~い……」 「ん~……?」 「いや、酒飲んでるとか知ってたら送らんかったしぃ……てかオマエなんで飲んでんの? 誰かに誘われなきゃ飲まないじゃん! ボクとナッスん以外に誘ってくれるヤツいたわけ? それはそれでムカつくけどぉ」 「んー……」 「オレ様モードうっぜ、っや、ちょいちょいちょい! ボクんちこないで!? ボク再生はできないからっ! オマエ五百年前テンション上がってボクのお屋敷半壊させたのまだ許してねーからね!」 「あ~……わかったぁ~……」 「はいはいリョーカイ! 送ればいいんでしょ送れば! くそ~迎えに来いよめんどっちぃにゃんもう~」  嫌そうなズーズィ。  どういう原理で悪魔の世界に電波が入っているのやら。 「ズーズィ、かわってくんね」 「にゃに?」  ズーズィの声から相手を把握した九蔵は、そんなことを考えながらズーズィの耳元へ手を伸ばした。  少しずつにじり寄っていたのだ。  特に抵抗しないズーズィの手から通話状態のスマホをスルリと奪い、そのまま自分の耳元にあてる。 「今夜は、帰んねぇです」 『……あ? 九蔵?』 「んふ。ズーズィの誘惑に、負けちゃったんですよ、ね」 『おい、待て。なんだって? なにが』 「だってもう、手遅れだろ……? こんなんもう、ダメダメだよー……俺、お前に合わせる顔も体も、ねぇんだ」 『────っ!?』  好き勝手に管をまいた九蔵はガクンッ、と首を落とし、その勢いでスマホ画面の赤いボタンを押してしまった。  別に問題はないので気にしない。  本当のことしか言っていない。  ズーズィの言うとおり、飲み会の誘惑を断りきれずに腹肉を甘やかした九蔵は、通話の相手──ニューイに合わせる顔も体もないのだ。  飲んだものはなかったことにならないので、手遅れボディの残念フェイス。  だけど一応きちんと報告はした。  嘘も吐いてなければ隠し事もしていないので、ニューイは安心して「九蔵は今日ズーズィとお泊り会なんだね!」と納得したはずだろう。  カレシとしての伝達事項は伝えた。浮気やらヒミツやら、不安要素は皆無と思う。なにも問題はない。 「ん。ありがとーさん」 「いやその言い方問題じゃない? ボクがクーにゃん寝取ったみたいなカンジになってるじゃん。マジで言ってる?」 「? 嘘じゃねぇから〜」 「マジで言ってんにょっ?」  ズーズィは口角をヒク、と引きつらせて自分の顔を両手で挟んだ。  どうした。暇なのか?  ズーズィが暇なのはいつものことなので大丈夫である。  のんきな九蔵は切れたスマホをズーズィに返してから、組んだ腕に顎を乗せて真っ赤な頬を緩ませる。 「ってことで、俺、今夜は帰るとこねぇんで……お泊りさせて、ほしいです?」 「絶ッ! 対ッ! 無理ッッ!!」  胸の前で全力でバツを作ったズーズィは、誰でもテイクアウトご自由に状態の九蔵を小脇に抱え、部屋を飛び出した。  そんなに必死に拒否しなくても。  酔うと様子がわかりやすく甘えたい気分になるが別に性格は変わらない九蔵なので、ちょっぴり寂しくなるのであった。 「ズーズィのいけず……あ〜俺ってうぜぇかなぁ〜……もう言わねから、今日だけでもダメかなぁ〜……」 「うっぜ! でもウザいクーにゃん愉快だから大好き! ただ今ボクの持ち家なくなる案件だから永久に黙ってくんね!? ガチめにアイツ特急でキレてる系なんで!? 腐っても王なんで!? 死ぬじゃんボクがッ!」 「ま? うわ、ズーズィ好き。すっげ嬉し、うひひ。俺も大好きだよ〜」 「あぁもう腹抱えて笑いたいのにぃ〜!」 「あははっ」 「あ、でもイタズラズーズィの名にかけてクーにゃんのポケットにコトダマ入れとこ。ってか玄関遠いわぁッ!」

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