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「九蔵……? なぁ、もう抱くぞ」 「はっ。じゃぁ、言うよなー?」 「っ、あぁクソっ、まだダメだって? オマエそこらの修道女よりガード固ぇな。スカートの裾に触らせもしないのかよ」 「なぁんでだよ~」  ニューイがみんな白状するなら好きにされようと決めたものの、この期に及んでまさかニューイは舌を打ち、凶悪な笑顔を見せた。  九蔵は流石にここまで引きずる気持ちが理解できず、キョトンと目を丸くする。  ニューイは断固言いたくないようだ。  いつもなら引きずってダダをこねるのはシラフの九蔵で、シラフのニューイは素直に降参するのだが。  そのニューイが今は、イライラしながらも禁欲を選ぶほど固く意地を張る。  これがニューイの男のプライド(・・・・・・)、ということらしい。 「んふっ……もぉ、わかった、わかったー……はい、俺の負けです」 「っ、オイ」  珍しく頑なな彼氏の意地に負けて、九蔵は拗ねた表情をデレレ、と綻ばせた。  かわいい王子様だ。  ニューイのプライドのために、自分のプライドは捨てることにしよう。  九蔵はデレデレと桃色の頬を緩ませながらたじろぐニューイの首に腕をのばし、柔らかく巻きつける。 「悪魔だな、九蔵……」 「? んや、人間です。ちっぽけなやつ。言っちまえば楽になんのに……ニューイはなぁんで、言えねぇんですか?」 「さてね。優等生でいてぇのさ」 「ふぅん。なら優等生、ね。お前は俺の、優等生ぇだよ」 「っ……はぁ、キレそ……」  絡み酒のへべれけ九蔵は、なぜか苛立つニューイの唇に、軽く口づけた。  フニ、と柔らかく潰れ合う唇。  接触面にだけ神経を集中させると、この程度の触れ合いでもこそばゆく感じる。 「このまま見ねぇで、触るだけ。触るだけだけど──……いい、ぜ」  そのくらいの至近距離でなければ聞こえない声量で、九蔵はニューイの腕に手を滑らせて敗北宣言をした。  仕方がない。我慢できなかった自分が悪いことは事実で、我慢をしていたニューイにはきちんとご褒美を与えるべきだ。  九蔵は右腕は首に回したまま、ニューイの右手を左手で握り、濡れた自分のシャツの下へ誘う。  ニューイの大きな手がペタン、とありのままの下腹部に触れた。 「……っ」 「あー……うひ、どうしよ。すげぇ飲んだから、ここ、やっぱ弛んでますよねぇ……」  ──あーあ……バラした。  ニューイの手のひら越しに自分でも腹具合をグニグニと触りながら、九蔵は笑うしかなくてうひひ、と口角を上げた。  短期的についた肉は落ちやすいらしく、一時よりたるみは引き締まっている。  しかしまだ下腹部は柔らかい。  つきかけの腹筋を、怠惰な肉感がコーティングしていた。  それに今夜はワインボトル一本では足りないほど飲んでいるので、体つき自体は細身な九蔵の胴には、見ても触ってもわかる残念なふくらみが発生している。  酒を孕んだ意思の弱い微かな丸みだ。  とても、はしたない。  バスタブの壁にもたれかかるこの体勢では、その締まりのない様子がいっそうよくわかるだろう。 「んん……ふ、死にてー感じ……」  自分の怠慢やルーズな肉付きをニューイが美しい手で感じていることを思うと、九蔵はポコポコと体温が上がり、鼻血が出そうなくらいに全身が沸騰した。  黙り込んでいるニューイの反応がわからず、増して居心地が悪い。 「あぁ、も、やだよなぁ……酒とか水だし、明日んなったら、なくなってねぇかなぁ……あーあ、やけになっちまうよ」 「…………」 「ちょっと筋肉ついてるけど、やっぱまだ、恥ずかしいもんで……」  ニューイの手を押さえて、間接的にぐに、ぐに、と凹ませてみる。そんなことをしても張りは消えない。気休めにもならない行為だ。  そうして腰周りの肉を触らせていると。 「…………九〜蔵〜?」 「ぅ、っ? ひ」  ふと、ずっと黙り込んでいたニューイの手が、自主的にゆっくりと動き始めた。

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