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「オマエの話、まだちょい、わかんねぇんだけど……なに? これ」 「へ? ンぐっ……」 「若干やわっこくなったつぅ報告か? 腰つきの。それとも酒で腹いっぱいだから俺のは食えねぇっつぅ遠回し、おっと、奥ゆかしい拒絶か? ん?」 「なに言って、ぅ、っく」 「全然お触り禁止の理由がわからん。理由なしってことなら……ハハ。許せねぇわ」 「っあ……っ」  耳元で微笑され、ピクンと身が跳ねた。  いや違う。理由なしではなく、今触っている脂肪が原因だ。なぜわからない?  どうもニューイの反応が思っていた反応じゃなくて、九蔵はオロオロと困る。 「俺、ふ、太ったってこと、だけど」 「は? んなこと気になんの? 俺に言っときゃ食ったもん全部なかったことにする悪魔液ならいくらでも処方してやったのに? っても九蔵にゃいらねーだろ。ダシとり終わった鶏ガラだったくせに、むしろ全然足りてないよ。変なの」 「ん、っ違ぇ、よぉ……っ俺は普通くらいで、なりてぇの〜……っ」  確かにもともとはアレなくらい骨と皮だったので、九蔵は体の肉付きをよくしようと食事量を増やしていた。  しかしその方向性がだらしのない付き方をした、恥ずかしい下腹部。  九蔵は勇気を出して恋人には知られたくない腹肉を触らせたということなのだが、ニューイには九蔵の恥辱が伝わっていなかった。  勝手にあれこれ予想をしては、勝手に腹を立てているようだ。 「どうでもいいけど、たかがアルコールがオマエの中に入れるのかって思うと……クク、笑えるなぁ」 「あ、やっ……ニューイ……?」 「ハラワタ煮えくりかえるほどイラつく」  ニューイは九蔵の腹の表面を濾すようにまんべんなく触れながら、せせら笑った。 「たらふく食って、飲んで、それで俺が弾かれンなら九蔵にゃ酒もメシもいらねぇ。やせ細った腹、突き破ってやるぜ」 「グニって、すんの、やめろって」 「あーあ。コレってヤベェのかね。俺、食事に嫉妬してんのか。クッソ……」 「ンッ……!」  肉付きがよくなった下腹部と腰を散々なでていた手に、ジーンズの上から太ももを掴むように裏ももを揉みなぞられた。  そこも以前より多少肉付きがよくなっている箇所で恥ずかしい。 「く、ひ、ニューイ、嫌だ」 「つーかそもそもオマエの肉感が増したのが、俺を焦らした理由となんの関係があるってんだッ? えぇッ?」 「ん……っなにって、俺、スタイル悪ぃだろ……? 筋トレ頑張って、夜中抜け出すお前のこと、押し倒して引き止めてぇって思ったから……っ」 「……。ほーん。それで?」 「でも、ズーズィに飲もうって、誘われて、誘惑に負けちまってさぁ……ムチってんですぅ……だからあんま、触んねぇでくんないって、話……」 「あ゛?」 「ぁ?」  九蔵がへにょりと眉を垂らして説明を終えた途端、ニューイがビキ、と硬直した。  完全にヤカラだ。  ギラギラと光る双眸。浮いた青筋。至近距離なので、月明かりだけでよく見える。  ベロベロへべれけ状態でもわかるくらい、酔って過激派オレ様モードの素が出ているニューイは、キレている。 「ってことは、なんだ? 俺とバスタイムはクールに断ったくせに、ズーズィと酒にゃ負けちまった? 俺の誘惑が負けたってこと、か?」 「な……なぁに、怒ってんですか……?」 「いや怒ってねぇよ? ただよくわかんねぇけど、その程度のこと(・・・・・・・)で九蔵は俺の誘惑にゃ見向きもしなかったってことだな?」  マズイぞ、なぜか余計キレている。  こんなはずじゃあなかったのに。  九蔵は首を反らしプルプルと震えた。  そうとも言うがそうではない。そんな言い訳も今は悪手だ。  イラつくニューイは「チッ」と舌打ちをして無理やり九蔵の顔を前に向けると、鼻先が触れ合うほど顔を近づける。  そして九蔵が目を丸くした一瞬。 「覚えてろ。男はなぁ、多少だらしねぇ体のほうが、アガんだよ」 「っあが、ん……っ!?」  ──お、俺も男なんですけども……っ?  ニヤァと笑ったニューイは、自らも着衣のままバスタブの中へザブッ! と豪快に踏み込んだ。

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