320 / 459
320※微
ビクッ、と大袈裟に身が弾む。
ややぬるまった湯がたゆたう。
ニューイは容赦なくザブザブと九蔵をバスタブのすみへ追いやり、湯の中の九蔵の腰を両手でしっかりと掴んだ。
「ひっ」
「ほら、締まりねぇとこ触ってやるよ」
「や、やめぇ……っ」
胴回りをしっかり捕まえられ、揉み揉みさわさわとどこかいやらしい手つきで丁寧にマッサージされる。
九蔵はアルコールで火照った体を捩り抵抗を試みるものの逃げられない。贅肉が増えた体を触られたくなかったと言ったのに、ニューイは話を聞いていなかったのだろうか。
「ふっ……マジで、それ恥ずかしい……っ」
「ン〜、確かに、ペラい腰に厚みは出てんのね。掴みがいがある程度にゃ柔けぇ肉に懐かれてるじゃねーの」
「嫌だって、ば」
混乱する九蔵を尻目に、ニューイは九蔵の体を検分しつつ、首筋や鎖骨を舌で愛撫した。
ピクン、と反応してしまう。
懐かれたくて懐かれたわけじゃないのに、あまり笑わないでほしい。
ニューイに揉まれながらチュクチュクと肌に吸いつかれると、九蔵は内側が疼いてしまいそうになる。
「触り方、と、声……っが……」
「見てねぇだろ? オマエが言ったクセに。見ないでいいなら触っていいって」
「意地悪ぃこと、言わねぇで……っ」
ふ、と笑われ鼻息がかかった。
くすぐったい。部屋の中には九蔵の悲鳴とニューイの実況、ジャプ、と湯が揺れる音が響く。
「胃はこのあたり」
「う、ッ」
「ははーん、飲んだくれてやんの。人間の体は飲んだだけ膨れてわかりやすいよ。なぁ? 俺の体液、膨れるくらい飲ませてやろうか? 九蔵?」
「っ……やめろよもぉ……っ」
触れながら舐め、説明するニューイの性根は、やはり悪魔だと思った。
逃げられないよう足の間に座りこまれ、半端に鍛えただけの肢体をまさぐられると、九蔵はたまらなく恥ずかしくなる。
九蔵が嫌だ嫌だと首を振ると、ニューイは「嫌がってばっかりだな」と口元に弧を描いたまま目を細めた。
「でも、いや、ですし」
「フン、意地悪ぃの」
「だって、俺ばっかりたるんで、ハダカじゃいられねぇだろ……?」
酔いが覚めたとは言い難いが、性根がかわるわけじゃない。
ニューイの前で脱ぐのが恥ずかしくなって、ニューイに負い目を感じて、最後にはニューイにもっとダメになれと八つ当たりをしてしまう最低な末路。
そんなのは、嫌だ。
そんな自分が一番恥ずかしい。
「これ以上、だらしなく、しねぇで」
「ッ……ハハ」
酔っていてもそう考える九蔵だから、ニューイの肩を押して〝もう勘弁してくれ〟という意思表示をした。
膨れてしまうと溶けてしまう。
明日から締めるので、今夜はもう。
九蔵はそう祈ったのだが、祈られたニューイは笑顔で呪文を唱え、どこからともなくワインボトルを呼び寄せた。
「やだね。九蔵はもっと──だらしなく、なっちまえ」
「ぅぶ、っ……ふ……っ」
そして言葉と同時にワインボトルの口が九蔵の口とつながり、中身が流れ込んだ。
どういう仕組みか溺れそうなくらい無理やりは流れ込まず、ひとりでに九蔵の喉を伝い落ちていくワイン。
ゴクゴクとではなく、トロトロと、ゆっくり確実に胃袋へ落ちていく。
──ああ、酷い。
せっかく泥酔した脳に羞恥心が勝ちそうだったのに、これじゃあまた酔いどれたバカに逆戻りだ。
こうされると、九蔵の意思で嚥下するかどうかとは無関係な話になる。
「オマエは間違ってるよ。九蔵。間違ってる。黙って甘ったれちまえばいいのに」
「ふ、っ……っ……」
「抗うオマエは、ストイックだよ。だらしねぇのは、俺のほう」
(なに、が……? なに……わかん、ね)
ブルッ……と全身が戦慄いた。
グラリと揺れて、ニューイの言葉も理解できず、九蔵の覚醒はまたもや遠のく。
熱くヌルついた舌が心地いい。
トレーニングのあと、汗をかいたインナーを脱がなければよかった。
素肌を覆う白いカットソーの上から唾液を塗り込まれ、透けた乳首をねぶられると、直に愛されるよりムズ痒い。
「ン……っ……ゴホッ、く……ぅ……」
与えられる快楽へ、九蔵は無意識に胸を仰け反らせて突き出す。
心臓の脈動とともにピク、ピク、と血が下半身へ集まり、中心がささやかに頭をもたげようとしていた。
ともだちにシェアしよう!