アルコールで興奮している。 　たぶん体温の上昇を体が官能的なエキサイトだと勘違いしているのだろう。 　フワフワと酩酊する意識ではそう勘違いすることも無理はない。 　今、辛うじてわかることは、ニューイが笑っていたこと。 　それから首筋から胸元へ刺すようにキスマークを刻み続けるニューイの吐息が、火傷しそうなほど火照っていること。 　あとは、ニューイの不機嫌。 　九蔵がズーズィの誘いにノったから拗ねた上に体液を飲むのは嫌だと言われて、完全に機嫌を損ねてしまった。 「うまいか？　クク、うまいな」 「ン……ゴホッ……ぅ……」 「千年先輩の俺は、千年ポンコツなんだよ。だからもう、抗う気もあんまりねぇのさ」 「……フ、ッ……」 「それで、ポンコツのまま王子様扱いして愛してくれるオマエに、依存してる。だってダメ悪魔のまま愛してくれんだよ？　オマエは。じゃあ努力はしたくねぇなぁ……実は怠惰で、傲慢」 「は……っぐ、ふ……」 「〝いいんだよ〟って言うのは、俺が優等生にゃなれねぇから、オマエもポンコツでいいだろって言ってんだよ」 「……っう……」 「なのにオマエは抗うから、嫌になるね……たまに、憎らしいくらいに」 　ニューイは「な？　わかるか？」と、九蔵の耳元で早口にまくし立てる。 　コク、コク、とワインを体内へ受け入れる九蔵は、ニューイのまくし立てるさもしい内側を、ただ耳で受け止める。 「九蔵、カワイイ九蔵」 「ぅ、……っ……ン、く……」 「俺はイイって言ってんのに、なんで抗うんだよ。さっさと俺に溺れちまえ。早くここまで堕ちてこい」 　九蔵は頭が重く感じるとともに、クラクラと強く酩酊した。 　ニューイが笑う。 　ギラァ、と、凶悪に。 「俺とオマエで最底辺に、ハッピーラブラブハネムーンだ。ハハッ。最高だね」 （？　いや、ちょっと……なに言われてんのか、わかんねーですー……？） 　自重気味な笑い方で強引に話をするニューイの言葉に、九蔵はワインボトルを咥えながら脳内にハテナを乱舞させた。申し訳ない。しかし本当にわからない。 　ニューイとしては、勢いでボロッと口にしてしまった心の奥の秘密だろう。 　九蔵には言いたくなかった話だと思う。 　けれど残念ながら今の九蔵にとっては、酔っぱらいの愚痴くらいの認識だ。というか正確にはなんの話かすらよくわかっていない。 「っは、っ……ゴホッゴホッ……」 「ふ、苦しいか？　嫌われたかな……」 　半分ほどを飲み干してようやくボトルが離れ、九蔵はむせ返った。 　酷い。酷い。あんまりだ。 　ニューイの言うことは遠回しすぎる。どうしてちゃんと言ってくれないのか。恋人相手に余裕なフリとは、情けない。 　ニューイはゲホゴホとむせる九蔵を前に、変な顔で笑う。 　だからなにを気にしているのかわけがわからないと言っているのだ。変な顔でもイケメンだから安心してほしい。 「もぉ……酷ぇよ……っ」 「うん、ごめん」 「ばか、わけわかんねぇのに、酷ぇことすんなってぇ～……っ」 「っは？　わかんねぇって、嘘だろ？」 「なぁんの話かわかんねぇし……ニューイ、なんか変に怒ってるし……っ」 「なんの話かってオマエが聞きたがってた醜い言い方、ってか……ここ普通わかるとこっつか、俺のいじ汚ぇ部分にこう、真剣なカンジになるっつか……」 　知るか、そんなこと。 　全身がカッと熱くなった九蔵はぐでりとバスタブに身を預け、よくわからないままニューイを責めた。 　一人シリアスモードだったニューイは目を丸くして驚くが、九蔵は「そんなん知らねぇです」と口元をへの字に曲げるだけだ。 　力の入らない肢体をグダらせて、ふくれっ面でそっぽを向いた。 　こうなるといよいよ、ニューイの逆転サヨナラ負けが確定する。 「言ったら言ったで引かねぇし受け止めねぇしそもそもわかんねぇとか、オマエ……あぁもうっ、抗うなぁ九蔵は……っ」 「知ぃらねぇってぇ、わかんない」 「はぁ〜……ちゃんとわかれよ〜っ」 「わぁかんねぇの〜っ」 　先に負けを認めるのは九蔵だ。だが結局負けるのは、たいていニューイだ。 　脱力してムシのように身じろぐ九蔵にポカンとしていたニューイは、疲労困憊のため息を吐いて九蔵の顎をわしゃわしゃとくすぐった。 　アルコールで赤らんだ顔が、呆れたように疲れ果てている。 　けれどどこか面映ゆい粟立ちを感じてもいるようで、嬉しそうにも見えた。 　九蔵は〝こんなニューイもカッコイイなぁ〟と、的外れに思う。 「なぁ九蔵」 「ンッ……」 「わかんなくていいから、続き」 　ニューイは九蔵の顎をなで、胸元をなぞり、濡れたシャツの上からでも尖りを主張する淫らな乳首を引っかいた。 　修道女よりガードの固い恋人の焦らしが、たいそう堪えているらしい。