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 絶妙に爪をたてて引っ掻くところが、誘惑に長けた悪魔たるものか。  アルコールで鈍った感覚でも強めの刺激を断続的に一瞬与えられると、メリハリの波で感じてしまう。 「ぁ…はっ……」 「たまんねぇよなぁもう九蔵。よし、どのくらい太ったか確かめてやる」 「んっ、お前、犯すだろぉ」 「犯さねぇ犯さねぇ。俺のアレで九蔵の中に触るだけ。オマエの言い分と俺の言い分をどっちも叶えるステキな提案」 「ひ、っん……だぁめだってー……お前に俺のやわこいとこ、触られんの、恥ずかしいんで……っん」 「はぁ? だからその程度で(・・・・・)拒否んな。オマエのだらしねぇ体も、俺は好きだよ」 「ぅくっ……」  言いざま尖りをつねり、ニューイは九蔵の飲み残しのワインを一気に煽り、ゴク、と飲み干した。  その程度。  さっきも聞いたが、その程度。  九蔵にとって一大事な事柄を雑に扱うニューイの言い方は、ミステイクだ。酒で欲望に素直になるあたり、普段も本当はそう思っていたということである。  まぁ最低な話だろう。  ニューイにステキと思われていたい九蔵の気持ちを、ポイと投げるような言い回し。 (でも、俺の事情なんかどうでもいーいくらい、拒否されんのヤだったんだなぁ……)  そうまでしてこの体を抱きたいとは。  なんだかマヌケな本性だ。  理解はできないが、納得はした。  自分じゃ語らないくせに透けて見えてしまっているニューイの欲望がいっそおもしろくて、九蔵は「わは」と笑う。 「はいはい……お好きにどーぞー。ヒミツはじょうずに言えねぇで、ヤりてぇばっかりのニューイでも……俺は好き」 「は、……そうかい」  ニューイはひととき息をのみ、それから困ったように眉を上げて笑みを浮かべた。  本当に、最低だと、自覚がある。  九蔵は結局夜の不満もカラダの不安も白状した上に男前に触らせたが、ニューイはこれまでなにも九蔵の望みを叶えていない。  言ったことは〝早く堕落しちまえ〟と〝さっさと抱かせろ〟の二つ。  言葉にすると手の施しようがないほど最低だ、とニューイは苦笑する。  それを、日常のように許すのだ。  そんな九蔵が恨めしい。  グロテスクな怠慢や弱音はわかんねぇよと拗ね腐り、欲望を押しつければもういいよと、だって好きだからと、言う。  悪魔のような恋人である。  ちょっと心配になるくらいに愛が深い。  誰にでもハートのガードはガッチガチなのに、惚れた相手(ニューイ)にだけはフリーパス状態。 「俺も好きだぜ、九蔵が一番」 「あ……ん」 「いや、俺()好きだよ。世界で一番、誰よりも、キミを好きだ」  ──このパスは、譲れない。  ニューイがそんなことを考えて執着心を燃やしていることは、九蔵の知らない男のヒミツなのである。 「尻はあんま変わんねぇな」 「ぅっ……」  九蔵の腰を抱くようにすくったニューイは、双丘の谷間をなぞるように下着の中へ手を滑り込ませた。 「は、ぁ」 「揉みごたえはねぇけど、締まりはイイまんま。久しぶりだからむしろ狭いか」 「くっ……」  言いざま、ズプ、とニューイの指が一本、割れ目の奥へ潜り込む。 「あ……はっ……」  普段より熱いだろう体内。  ニューイの指がぬるく感じる。  抱かれていない間も、自慰なんてしていなかった。中が疼いても自分では触らないまま我慢していた。  突然侵入された内部は、キュウ……ッと縮こまる。肉の隙間をまさぐる指は、動きにくそうに円を描きながら根元まで入り込んだ。  ローションなしではキツいだろう。  自分でもわかる。  それでも構わず中をかき混ぜる指が二本に増えたものだから、九蔵は思わずビクッと筋肉をこわばらせた。 「ん、っ……増えん、の」  湯は潤滑油たり得ない。  開くには少し、ヌメリが足りない。 「こーら。いけねぇなぁ……」 「ヒ……ッ」 「オマエはなにもすんな。なにも」  ただそれだけのことなのだが、ニューイは九蔵の不満ととったらしい。  九蔵の腰回りを揉むようになでながらキスをする寸前まで顔を近づけつつ、子ども相手のように言い聞かせる。  抵抗する気は毛頭ないのだが。  むしろトレーニング込みのブランク明けで、体がキツくなっていて困る。 「や、キツいから……んっ……ローション欲しいですー……って……く…ん……」 「まぁ、そうだな」  グニ、グニと、肉の隙間をくすぐり念を押すニューイに、九蔵はコツン、とニューイの額へ自分の額を当てた。  九蔵が言葉につまると、不意に二本の指がズルッ、と引き抜かれる。 「っ……ん」 「怖くねぇから、呑み込め。**、*」 「へ、っ? っあ」  途端──ハンパに溜まっていた湯の一部がひとりでにうねり、ヌルルル、とうまく開けない入り口をこじ開けて滑り込んだ。

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