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「うぅ……悲しみがすごい……九蔵に叱られるのは恐ろしいであった……っ」  そんな九蔵にフォローされたニューイはなんとか考える余裕ができたようで、ボフンッ! と人間体に戻った。 「おかえり」 「ただいまである……」 「じゃ、説明してくれ」 「ぐっ……いやま、まさかこうなるとは……しかし説明なんて、私の思考とヒミツをかい……? それはつまり私が九蔵をいかに好きかという楽しい話ではなく、私がいかにモニャモニャかという恥ずかしい話をせねばで……」 「ニューイさん」 「うむむむ……っ!」  拳を握る九蔵に、ニューイは冷や汗タラタラで慌てふためいた。  それでも悩ましげだ。  顎に手を当てウンウンと唸ったあと、涙目でチラ、と九蔵に視線を向ける。 「ちなみにその、アルコールは……?」 「飲んだら抱くな」 「ディフェンスの九蔵は最強だな!」  一刀両断されたニューイは、ついに頭を抱えてくねくねし始めた。  自分が吐き出す時はやわらか豆腐だが、自分が受け止める時は無敵要塞と化すのだ。  珍しく意地を張っていたニューイはしばらく逃げようとしていたが、やがてしょんもりと眉を下げた。  観念したらしい。  九蔵も一安心だ。  ついに、本音を知れる。  他人と議論することが好きじゃない九蔵とて、こんな話を何日も引きずりたくはない。実は結構、緊張していた。 「わかったである……話すとも……」 「やっとか」  真剣な表情をするニューイに、九蔵も真剣な表情で向き合う。 「こうなると仕方ないさ……説明しなければ、私は今後もキミに『テメーこのドスケベクソカスが下半身で恋愛してンじゃねェよちッたァ我慢しろや脳ミソチ✕コかよボケ今すぐ死ね』と言われて滅亡することになるからね……」 「ん〜〜〜〜?」  向き合った九蔵だが、しょんぼりと言われた誤訳にクッ! と眉間を押さえた。  間違いではない。  が、正解では決してない。決して。 「ごめん。もうちょいマイルドなつもりだったんだけど」 「ん? なら『去勢するまで末節骨すら触れんな死ね』という意味だったかい?」 「わかった。全力でマイルドにしてくれ」 「では端的に『死ね』と」 「ん〜〜〜〜ッ」  ──いや悪魔様すぐ死ぬ……ッ!  九蔵はペシコンッ! と正座をした膝を叩きながら、またしても天を仰いだ。 「なんでそうなるんですかね……! 死なない方向で翻訳できねーのか」 「だって仕方ないである! 私にとっては死ほど辛い禁止令なのだよ!?」 「例え話なのだよ」  涙目であうあうクンクンと説明するニューイに、ガックリと項垂れる九蔵。  めんどうな大人が二人だ。  こうなると経験上、ごたつく。 (てかもうごたついてるよなぁ……)  深いため息を吐いた。  元来聞き分けはいい。そして元来、進んで誰かと揉めたくはない性分である。 「あ~……よし。もう、わかった」 「ム?」 「この件はなかったことにしようぜ。引きずるのは嫌だけど、ちょっと流れ的にめんどくさくなってきたしな」 「ムッ……!」  九蔵はパチン、と両手を合わせた。  ──結局、臆病で怠惰なのだ。  それほど自分の言葉を重く受け止めるニューイが本心を明かしたがらないのだから、ほじくり返して余計拗れるのが嫌だ。  水に流して、気になってしまう気持ちごと忘れてしまおう。  そう考えてる九蔵に、ニューイはピャッと目を丸めたのち、神妙に腕を組む。 「どした?」 「そう言う時の九蔵は、よろしくないベクトルな気がするのでな。あとでムシになり、私は私でべそをかくオチが見える」 「否定はできねーです」  もっともらしい意見だ。こんな時だけ先見の明を発揮する。  実際ここのところ話し合いが停滞の一途をたどっていたのだから悩ましい。  またしてもウーンと二人で考え込んでいると、なにやら覚悟を決めた顔をしたニューイが、ピコン! と震える指を立てた。 「はい、ニューイさん」 「私は心底言い難いことだが、九蔵のヒミツを知らないままも、九蔵が我慢することになるのも辛い……どうだろう? ここはお互い感情を押し殺して腹をくくり、順に男のヒミツ、プライドを話さないかい? 二人ともがさらけ出し勢いで言ってしまえば、後の祭りだと思うである」 「なるほど……一理あるな」  九蔵はニューイの提案に頷く。  九蔵だけは昨夜に続いて改めて恥を晒さなければならないが、ニューイの本音が知れるなら我慢しよう。

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