331 / 459

331

「では俺からいきましょう」 「よしきた」 「俺のプライドは……ニューイにだけ(・・)は俺の残念なところをなるべく知られたくない、ってコトです」 「ほ、ほーう……?」  感情をねじ伏せてシラフで告白した。  ニューイは口を挟むことなく、冷静に先を促した。正座した足がプルプルしているものの、上半身は大人を保っている。  頑張っているらしい。  レバーあたりにキてそうな顔色だが。 「理由について」 「うむ」 「俺はニューイと違って普通の人間なので、痩せたり肥えたりするよな? 当然歳も取るわけで、衰えを止めることはできない。とりわけメンクイ故に美しさへの憧れもあるし、俺は俺自身が、俺の見た目を生涯イマイチと評価しています」 「? なる、ほど?」 「はい。まぁそんな俺だから……自分判定でよろしくないボディの時には、なにがなんでもお触りも脱衣も拒否する。ニューイがどう言おうが百年褒めちぎろうが暖簾に腕押し。なぜなら俺さんがニューイさんを愛しているからであり、ニューイさんがパーフェクト世界遺産級イケメンだからです。異論は認めません」 「ほう……つまり?」 「今後もバスタイム、スキンシップ、拒否する可能性ビックバン級」 「宇宙規模の一大事だね」  ニューイはこの世の終わりのような表情で、しょも、と九蔵を見つめた。  そんな顔をしても仕方がない。  これが九蔵の男のプライドだ。 「それじゃあ、男のヒミツは?」 「……あー……まあ、ヒミツはプライド由来のことで……お察しの通りニューイさんを避けていた理由と、帰りが遅かった理由になりますが」 「待ってました」 「ドゥレドの秘密基地を借りて、筋トレをせこせこ頑張ってたってこと、です」 「……?」  ハテナである。  そんな声が聞こえる顔でこちらを見つめるニューイに、九蔵はきっちり感情を押し殺して神妙な表情を保った。 「頑張ることはいいことじゃないか?」 「いーや。男には恋人とアレコレするために事前準備を頑張っていることを知られたくないシステムがある」 「私は男なのにないのであるが……」 「筋トレは努力系だけど、もっと簡単なことで恋人に知られたくない事前準備もあるだろ?」 「言ってくれたほうが安心するのにかい?」 「聞けぃ」  九蔵はピコンと指を一本立てる。  シャイな童貞ボーイの男の思春期男子なみの繊細なハートを、わからせてやろう。 「例えばだが……赤マムシドリンクの空き瓶を、わざわざベッド・イン寸前の彼女にゴミ箱で発見されたいと思うか?」 「──……!」  ニューイはハッ! と口元を押さえた。 「デート中、このあとキスする気満々でマウスウォッシュをシュッとしてるところを、彼女本人には見られたくないよな?」 「そ、それは……」 「今夜キメる気で顎に手をあてマテキヨのスキンコーナーに座り込み、見栄を張ってちょっと大きめのゴムを購入する姿を見られた日には?」 「くっ……!」 「まぁ、もっとボディ問題という俺の筋トレ事情に寄り添って例えるとだな……──俺さんは、笑顔で彼女に『包茎手術受けてくるぜ!』とか言って行ってきますのキスができる豪胆な彼氏では、ありません」 「私が悪かったよ九蔵──っ!」  わかってくれればいいさ。  やっと九蔵にとって一大事だったことを理解できたニューイは、愛する恋人をひっしと抱きしめた。  メンクイで美形に憧れる九蔵は、男の勲章問題と同じくらい自分の見てくれの劣化を気にするタイプで、割と見てくれに重きを置いているのだ。  これを理解すると、九蔵が「最近太ったから筋トレしてくる!」なんて、ニューイには言えないに決まっている。  太ったこと自体知られたくない。  オトメ心はオトコ心に置き換えられる。  つまりニューイの服を脱がせたいは「皮を剥いていいかい?」ぐらいの案件であり、つまり触りたいは「被っているところを揉みしだきたい」と同義であった。  ちなみに九蔵は包茎ではない。  例え話なので、あしからず。  しかし仮性真性関係なく包茎、ひいては勲章トラブルを抱える男にひときわ優しくしよう、と胸に誓った九蔵である。  勲章トラブルは悪魔も人間も共通だ。  どこの世界も、男の勲章は男のプライドの塊なのだろう。  ついでに生まれつきヒョロ長ガリ蔵で減量と無縁だった九蔵は、ダイエットをする女性の気持ちも理解した。  閑話休題。  とにもかくにも九蔵のわかりやすい例え話のおかげで、ニューイは心からわかりみを得てくれたようだ。  たるんだボディをこれまでも今後もなるべく晒したくなく、気にして鍛えているところも晒したくない。  そんな九蔵のプライドとヒミツ。

ともだちにシェアしよう!