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第七.五話 女たちとオ・ト・コ
──うまい屋・早朝。
夜の仕事人たちの来店時間を過ぎて支度を終えた頃。
モーニングの時間帯に入ったばかりの朝六時から七時過ぎくらいまでは、来客が少ない。この時間は、朝までバージョンの夜勤と朝勤がニアピンする時間だ。
そしてうまい屋朝の顔と言えば──麗しき女性陣である。
「男の人って、どうしてすぐ自分の失敗をヒミツにするのかしら? よけいなことはストレートに言ってきて『女みたいにコソコソするよりハッキリ言ったほうがいいだろ!』とかドヤ顔のくせに、言ってほしいことは言わないのよ。お小遣いなくなっちゃったなら言えばいいじゃない。もうっ、そこに男も女も関係無いでしょっ」
一人は、美園 夕菜。
通称・ミソ先輩。
朝勤パートのリーダーだ。
黒髪艶美人だが、中身はマイペースな人妻。誰とでも分け隔てなく接する。
本日は出勤前に朝食を食べるべく、うまい屋のカウンターに座っている。
「そうねぇ~? ハッキリ言うのはまぁアタシもそう思うわ。でも男のハッキリ言うは、ただの無礼な時があるのよね。女が男からするとマイルドな言い方をするのは、それが礼儀だから。初対面の人に〝あんたブスね〟とは言わないでしょ? イチイチ喧嘩するなんてめんどうじゃなぁい。それがわかんないとこがカワイイとこでもあるケド」
もう一人は、キューヌ。
通称・キュウちゃん。
最近入店した朝勤の新人である。
ダイナマイトボディのセクシー美女だが、恋愛脳の食虫植物系リアル悪魔。
同じく朝定食を食べるため、同居人にせがんでうまい屋にやってきた。
「お願いだとかゴメンだとか、言えば済むことを言わないのはプライドだろうな。男なりに大事なもんなんだよ。たぶん。ま、私は男のヒミツにも男のプライドにも興味ないけどね? 女の子なら話は別」
そしてもう一人、増尾 榊。
通称・シオ店長。
オールマイティシフトな仕事の鬼だ。
凹凸の少ないスレンダーハンサム美女だが、女性に甘く隙あらば口説く肉食系ハンター。
言わずもがな、同居人にせがまれ付き添い、朝定食を食べている。
「…………」
そして最後に、個々残 九蔵。
通称・ココちゃん。
ただの童貞フリーターである。
強いて言うなら彼氏が悪魔だ。
夜勤の九蔵はここにはいたくなかったが、あがり時間までもうしばらくあるため、突然やってきた美女三人組のガールズトークから逃げられなかった。
女性が集まると姦しい。
それがどこだろうと、たちまち女子会に早変わりする。
しかし抱かれるオンリーであるものの、九蔵は生物学上、サイズ、顔つき、性格など全てが男だ。
女子会に混ぜられても困る。
もちろん男の行動についてトークされても困る。いたたまれない。
(つか、男の俺に男の話を聞かせていいのか? 俺がいたら言いにくくなるんじゃねーか? あれだったら事務所に引っ込んどくけど、そこんとこどうやって切り出すか……)
「ココちゃーん」
「おいココ」
「ツマミちゃぁん?」
「はい。個々残 九蔵です」
むしろ呼ばれた。
内心オロオロと気遣おうとしていた九蔵は、この三人が誰一人自分を男として見ていないことを察し、ひっそりと涙した。
というかそろってかわいらしいあだ名(非公認)で呼ぶのはやめてほしい。
さりげなく訂正してみたが、効果はなかった。酷い。クゾウという名前は、なかなか男らしいはずなのだが。
「どうしました?」
「この際だから男の子に直接聞いてみようってなったんだけど、ココちゃんはどう思う? 男の人の気にするところって、私にはよくわからないのよ〜」
よかった。
一応男だとは認識してくれていた。
意味は違うがホッと安心した九蔵だが、首を傾げる夕菜の質問に、これはこれで困った。
「男の思考回路ですか……」
「あ! 男と言っても、もちろん個人の意見だからね! 性別で人間をひとくくりにする気はないし、ココちゃんとうちの旦那じゃ似ても似つかないわ~」
ニコニコと人懐こく笑う夕菜。
自分なりの答えでいいらしい。
それならいつも通りなので、相談に乗れそうだ。
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